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姫隊長ウドち本編(序)

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「……後悔しないか?」
男の低い問いかけは額面こそ脅しめいた確認であったが、ほんの少し、恐れのような震えがあった。
こんなひとでも、不安を感じるんだな。クラウドは内心微笑ましい気持ちになった。決意を込め、男の顔をまっすぐ見つめて答えた。
「しません……絶対に」
クラウドの目の前にいるのは幼い頃より憧れていた英雄、その人だった。彼のようになりたくて、田舎を飛び出し、挫折を経てクラウドはここにいる。何の力もないぽっと出の田舎者が彼と共にいるなど、誰も想像すまい。過去の自分が今の状況を知ったのなら、恐れ多いと足踏みするに違いなかった。けれど、クラウドは決断した。どんな逆境がこの先待ち構えていようと、この手を手放さないと決めたのだ。
クラウドは節立ちの目立つ大きな手を取り、碧色の目をひたと見つめて、宣言した。
「だから、俺と、結婚してください」




【愛のない結婚をします。】




クラウドは英雄になりたかった。

誰かを守るため、などという殊勝な考えではない。閉鎖的な故郷の空気に馴染めなかったことを自分の無力さゆえと思い込んだ結果、何らかの力があればひとりでも生きていけると考えた。
情報の乏しい田舎にまでも轟く英雄セフィロスの名前は、非力なクラウド少年にとっての福音だった。神羅の英雄セフィロス。共和国時代から燻り続く戦争に終止符を打った立役者。豊かな生活の基盤を布かんとする神羅カンパニーの守護者。比類なきその力はクラウドを魅了した。彼のような力があれば、実績があれば、どこでだって生きていける。何者にでもなれる。世界中の誰からも受け入れられる。疎んじられた故郷からも存在を認めてもらえる。そう信じていた。



英雄になるために、クラウドは神羅へ入隊した。ミッドガルでは満14歳から従軍が許可されているが、クラウドは誕生日を迎える前の春に入隊を果たした。満年齢に至らぬ若年であることと、同年代の少年に比べて身体の発達が遅かったクラウドである。列に並ぶと目に見えて細いその小さな体躯は悪目立ちした。からかいと軽視の視線に晒されながらもクラウドは必死で訓練に励んだ。

孤高を気取っていたクラウドは早速打ちのめされた。
「お高くとまってんじゃねえよ」
何度となくそんな言葉と拳を受け、クラウドはようやく理解した。興味のない人間と馴れ合いたくない。その考えは人を見下すことと同義と解釈されてしまうのだと。クラウドは他意があって孤高を気取っているわけではなかった。だが、頑なな態度は誤解を生む。言葉にしなければ、時には言葉ですらも捻じ曲がり、真意は伝わらないということを痛いほどに――まさに拳をもって理解させられた。
思い返せば、故郷でもクラウドは同様の過ちを犯した。同世代の子供たちに馴染めず、彼らを見下すことで自尊心を保とうとした。言葉と行動を出し惜しんだその結果、母をなくした悲しみに耐えられなかった幼馴染を山へ誘い傷つけた罪を擦りつけられた。やってもいないことを追求されるのは辛かったが、幼馴染の彼女を止められなかったことは事実だった。だからクラウドは冤罪に対して沈黙を貫いた。孤立と孤高を同じものだと思い込む幼稚さがクラウドをますます頑なに育てた。
軍隊は社会の縮図だった。クラウドのその頑固さは上官には扱いづらいと忌避され、同僚以下には反発心を煽った。故郷で受けた仕打ちよりもひどい誤解と悪罵、暴力があった。
クラウドは売られた喧嘩を律儀に買っていった。だが持ち前の反射力で切り抜けたとて、体格差、ウエイト差は覆せない。複数人を相手にしても怯まぬ蛮勇は無謀でしかなかった。


(中略)


そんな幾度目かの乱闘騒ぎの果て、懲罰房に入れられ、上官が苦い顔で迎えに来たときのことであった。
「ストライフ、貴様が誠実であることを、私は知っている。無理に馴染めとは言わん。だが、夢の実現のために、何をすべきか考えろ。兵士として夢を、誇りを持て――と、まあ、これはとあるソルジャーの受け売りだがな」
上官はソルジャーを志し入隊したものの、不適合と判断されて士官を目指したという。普段は私事を明かすことのない上官の、ソルジャーになりたかったという言にクラウドは驚いた。治安維持部門、特に士官クラスとなるとソルジャー部隊をライバル視する者は多い。ソルジャーを志しながらも適正なしと判断された逆恨みで敵対心を抱くケースも多くある。けれど、彼はいまだソルジャーに焦がれているのだ。
その言葉で、クラウドはようやく今までの自分の選択が致命的に間違っていたことに気がついた。たとえクラウドが正しくとも、その正しさは時に場を乱すことを。本当は最初から分かっていた。けれど、自分がいかにちっぽけな人間かを直視するのは恐ろしいことで、クラウドは己の至らなさに傷ついた。
クラウドには兵士としての誇りはない。抱いていたのは誰かに自分のことを認めてほしいという自尊心だけだった。しかし、クラウド自身ですら自分のことを認められなかった。であれば他者にそうされるはずもない。変わらなければ。誇りを持てる自分になるために。誰もが孤独と戦っている。羨み、悩み、無力な自分に失望しつつも諦められずにここにいる。そんな自分を受け入れることと他者を受け入れることは同じじゃないか。クラウドはそう悟った。

それに気づいてからのクラウドは、自分と同様に部隊で浮いた者がいればそれとなく声を掛けフォローした。その変わり様に気味悪がられたものの、クラウドはめげなかった。クラウドは元より人目を気にするような性格ではない。悪いことをしているわけでもないのだし。それに、孤高を気取って和を乱していたときよりはマシなはずだ。
部隊で浮いているのは協調性の欠ける頑固者、明らかに身体能力が追いついていない貧弱な者、粗暴な言動で距離を置かれている者と様々だった。彼らの特性はクラウドにも当てはまった。その姿に自分自身を重ねていた。だから、根気強く声をかけた。お前はひとりではないと教えるために。そうすることでかつての自分が救われたような気になれた。孤独なものの心の支えになることで、過去の自分が慰められるような心地がした。
クラウドの自分本位の行動は、しかしながら誰かの役に立っていた。部隊の張り詰めた雰囲気は徐々に緩やかになっていった。小さなお節介はやがてクラウド自身にも優しい言葉や態度で返ってきた。「クラウドは顔の割にとっつきにくいかと思ってたけど、いいやつだな」、「こんな小さいのに大した根性持ちだ」など。好き勝手言うものだと思うが、クラウドはまんざらではなかった。故郷で自分の行いを肯定されることなど、なかったから。

人間関係は鏡であった。周囲の人間に接する感情はいずれ自分に返ってくることをクラウドは学んだ。誰かの役に立つことは、自分の満足のためであった。だが、周囲の人間はその行為を見返りを求めない高潔さ故だと解釈した。クラウドの整った容姿はしばしば誤解を生んだ。美しい容姿にふさわしい崇高な精神を勝手に見出された。それがクラウドの不運の始まりだった。
作品名:姫隊長ウドち本編(序) 作家名:sue