sunday in the rain
「…うん」
梅雨、だもんなあ。
折角楽しみにしていたのに。朝起きた瞬間から外から音が聞こえていて、いやな予感をたっぷり含みながらカーテンを開けると 外はやっぱり、雨だった。
雨雨雨。
これでもかって位の雨。
恵の雨だとか、雨が降らなければ云々言うけれど、なぜ神様は365日中1日しかない6月8日という日に雨を降らせたのでしょうか。
一年に一度しかない栄口の誕生日に二人っきりでデート!
ずっと、ずっと楽しみにしてたのに…!!!!
こんなに悲しいっていうのに、携帯越しの栄口の声はあまり残念そうに聞こえなくて、なんだかぶすっとしてしまう。
すっごい楽しみにしてたのって俺だけ?
「俺、雨嫌いじゃないんだ」
問うと、そう返事が返ってきた。 雨?雨なんて練習はつぶれるし、髪は湿気でうねるし、阿部の機嫌は悪いしわで、悪いことだらけじゃない!
そう反論したら、水谷らしい言い分だね、と栄口はくすくす笑った。
「俺の生まれた日。丁度16年前の今日も雨だったんだって。そのせいかな?なんだか安心するんだ。 ほら、雨って母体にいる時の感覚似てるっていうだろ?だから、雨は好き」
今は亡き母に抱きしめられているようで安心するから好き。
その空間だけは、大事な人以外、入っては来れないんだ。
そう言った栄口の顔は、電話越しでは覗えない。
ねえ、今栄口はどんな顔をしてる?
お母さんのことを思い出して、うれしい?それとも、さびしい?
「ねえ、その世界に俺も入っていい?」
もっと、他の言葉があったかも知れないのに、俺の口先から出たのはそんな言葉で、それは隠しきれない本音だった。
「ふふっ」
「な、なんで笑うんだよう」
まじめに聞いたのに、帰ってきたのはいつもと変わらない笑い声で、ちょっと安心した。
「だって、もう入ってるだろ。それも土足で」
その笑顔が見たくなって、俺は玄関のドアを開けて走り出した。
きっと、いつもの大きな笑顔で迎えてくれるんでしょう?
君の家に着いたら、ちゃんと仏壇の前で君のお母さんに、栄口を産んでくれてありがとうって。
そう、伝えたいんだ。
作品名:sunday in the rain 作家名:幹 葉子