良く出来た弟がお兄様に直談判するそうです。
「…一体、いつになったら進展するんだ?」
…良く出来た弟の我慢も限界のようで、お兄様に直談判するそうです。
「兄さん、話があるんだが?」
「…ん?…何だよ」
ソファーの上、上機嫌に小鳥を撫で回していたプロイセンが顔を上げる。小鳥は何かを察したのか部屋を出て行く、それを名残惜しそうに見やるプロイセンにドイツは眉を寄せた。
(俺より、小鳥の方がいいのか?)
何とも理不尽な嫉妬。…独占欲が強いことには自覚がある。こと、この兄に関しては独占欲と一言では片付けられない。底の見えない執着と深い依存。そんな感じだ。…だが、自分が思うほど兄は自分に対して執着はしていないし、依存もしていない。昔はこう、もっと今の自分が望むように兄は好いていてくれたと思うのだが、最近、邪険にされているような気がするのは俺の気の所為だろうか?…ドイツは眉間に皺を寄せる。その皺を見やり、プロイセンは首を傾けた。
「何だ?何か、あったのか?東側で問題でも起きたのかよ?」
「…あ、いや。それはまったく問題ない」
格差は相変わらずだが、それは徐々に埋めていけばいい。問題は、この関係だ。
「じゃあ、何だよ?」
「俺と兄さんのことだ?」
「俺とお前?」
「ああ」
ドイツは頷くとプロイセンの隣に腰を下ろした。
「仕事じゃねぇんだな?」
「そうだ。極々、プライベートなことだ」
「何だよ?」
ドイツを見やり、プロイセンは口を開く。ドイツは意を決して、顔を上げプロイセンを見つめた。
「…そろそろ、キス以上のことがしてみたい」
あの夜以来、お預けを食らったままだ。キスはさせてくれるが、腰を抱こうものなら直ぐに逃げられてしまう。そんな雰囲気になっても、躱されるか、ぶち壊されるかで…、わざとじゃないかと疑うこともしばしばで…。我慢も限界に近づいている。監禁してやろうかと本気で物騒なことを考えるが、「消える」だの「ロシア領になってやる!」だの、本気で向こうも言っているので手が出せないのだ。…ドイツはプロイセンを見つめる。プロイセンは嫌そうな顔でドイツを見やる。それにドイツはショックを受けた。
(…そんなに、俺とするのが嫌なのか、兄さんは。…なら、何で、恋人になってやってもいいなんて言ったんだ…)
どんよりと重たい空気を纏い、落ち込んだドイツにプロイセンは溜息を吐いた。
「…お前、まだ、捨ててねぇだろ?」
「は?」
プロイセンの言葉にドイツは顔を上げる。プロイセンは険しい顔をして、ドイツを睨んだ。
「お前のベッドの下のおもちゃだよ」
「…あ、それはだな…」
「俺、捨てろって言ったよな?」
「…ああ。でも、まだ使ってないし、その、もったいないだろう…」
「…もったいない、ねぇ?」
部屋の温度が一気に下がったかのような錯覚。ドイツは恐る恐るプロイセンを窺う。プロイセンは笑っているが目は笑ってはいない。
「挙句にまた何か買っただろ?」
「何故、それを!開けたのか!?」
思わずそう怒鳴り、しまったと思うが遅かった。
「荷物、受け取るのは誰だ?俺しかいねぇだろうが!送付先は会社名で品名も適当なものだったけどな、お前のパソコンの履歴みりゃ、一発で解ったぜ」
「プライバシーの侵害だ!」
「何が、プライバシーの侵害だ!こっちは身体的強奪に遭うかもしれねぇんだぞ?我が身を守る為に情報収集を怠れるか!…って言うか、見られたくないならパスワードでも入れとけ。情報戦略の基本だろうが、お前、平和ボケしてんじゃねぇのか?」
正論のようにそう言葉を返されては立つ瀬もない。ドイツはぐうっと押し黙る。それを見やり、プロイセンは溜飲を下げた。
「…で、何、買ったんだよ?」
「…い、言わなければ駄目か?」
「「Nein」は認めねぇ」
教官の如くそう言われれば、口を割るしかない。ドイツは身を縮込ませ、ごにょりと口を開いた。
「背面首輪付縦手枷とボールギャグ…」
「…他にもあるだろ?」
「…エネマグラ…」
「…………」
「…アナルパール…ディルド…、プラグ、各二種類づつ、以上だ」
「…………」
冷たい沈黙が落ちる。身の置き所がない。プロイセンから深い深い溜息が漏れるのを死刑宣告を待つ囚人のような気持ちで聞いて、ドイツは視線を上げる。プロイセンは額を押さえ、低く呻いた。
「…俺、お前のそういう趣味ってか、嗜好がまったく理解出来ねぇんだが」
「…理解してくれとは言わない。だが、そうしたいと思うのは兄さんだけなんだ」
思春期を迎えて、女性を見てもそういう気すら起こらなかった。自分がそうだと自覚したのは、戦争中怪我をして帰った来た兄の裸を見たときだった。無数に残る銃創や剣創、その上に上書きされた新たな傷から滲む赤に思わず見蕩れ、苦痛に眉を寄せ、耐えるプロイセンに性的に興奮し、精通してしまったなどと絶対に口に出来ない。…もう、どうしようもないのだ。苦痛に顔を歪め、それに耐えるプロイセンが見たい。その苦痛を与えるのが自分ならば、それだけで満足出来る気がする。ドイツは縋るようにプロイセンを見上げるがプロイセンは浮かない顔でまた溜息を吐いた。
「…痛いの、嫌なんだよ」
「善処する」
「SMに善処とかねぇだろ。…馬鹿じゃねぇの」
はあっと吐く息はますます深くなっていく。
「…縛るだけでも、いいんだ」
その溜息に譲歩してみるが、それにプロイセンはキッと眉を上げた。
「全力で断る!!」
それに「ですよねー。」と心の中で返して、ドイツは項垂れた。これではどちらかが折れるまで平行線ではないか。プロイセンは譲らないだろう。そして、自分も譲れない。…そうなると、この膠着状態が永遠に続くことになる。結局、現状況維持なのか…。ドイツは溜息を吐く。その溜息を吐いた横で、プロイセンがぽんと手を打った。
「いい方法、思いついたぜ!」
「いい方法?」
それにドイツは顔を上げる。プロイセンは目を光らせ、得意げに笑った。
「今まで、俺が抱かれる側で考えてたからいけなかったんだよな。別に俺が抱く側でも全然大丈夫じゃん。俺、お前のこと抱けるし。お前が道具使いたいって言うんだったら、俺がお前に使ってやればいいんだろ?何で、今まで思いつかなかったんだろうな!」
ケセセと笑うプロイセンにドイツの思考は一瞬停止した。…今、兄は何と言ったか?
「安心しろよ。昔、日本に縛り方習ったことあるからよ、仕事に支障ないように痕すら残さず華麗に縛ってやるぜ。…天国、見せてやるよ」
にっこり。満面の笑みを浮かべたプロイセンにドイツは頬を引き攣らせた。
交渉、説得は失敗。
そして、新たなる戦いが今、ここに勃発したのであった。
オワレ!
作品名:良く出来た弟がお兄様に直談判するそうです。 作家名:冬故