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その理性の内の野性

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いつもつまらない会話しか交わさない女は、しかしいつもと違う格好をしていた。見慣れない白い裸体が男の赤い瞳にうつる。かたちの良い、豊かな乳房の下あたり、右側の肋骨のところに、大きくも小さくもない黒子がひとつあった。引き寄せられる磁石のように、そこへと指を這わせると、まだ汗ばんでもいない筈の白い皮膚に、手のひらが吸いついていく様がよく分かった。あるいは、その逆なのかもしれないけれど。女の肌が男の指をとらえ、喰らってゆく。黒子の存在を確認するように、指をすべらせると、女の唇からは吐息がもれた。いつも辛辣な言葉しか吐かないその唇が、ひとりの動物に成り果てようとしている様子に、男はある種の感動さえおぼえた。そうして、自らの顔を、そこへと寄せてゆく。目隠しをされた女の唇は、うすく開かれ、何かを乞うていた。何か、そう、言葉以外のなにかを。男はあらかじめそれを知り尽くしていて、その上で与えてやるのだといった風に、数瞬勿体ぶった上で彼女にくちづけた。そうしながら、女のからだが、その全身でよろこびを訴えているのを悟ると、ゆっくりと、時間をかけて唇を離してゆく。再びひとつきりになった女の唇が、熟れるようにあかく色づいているのは、化粧なんかのせいではない。それを見て、まるで人間の野性にふれたように思えていくらか気分を悪くした男は、でも、その唇の紡ぐ音に、口許をかすかに緩めるのだった。誠二、ああ、誠二、愛してるわ。

 余韻に浸るのかと思えば、予想に反して、波江は臨也の薄い胸板を突き放すように押し返し、上半身を起こして目隠しを取り去ると、不可解そうに―――そうして不愉快そうに―――眉をひそめた。
「何をしてるの? はやく部屋から出ていって頂戴」
 ひどいなあ、と臨也がおおげさに嘆いてみせる。そもそもここって俺の部屋なんだけど。避妊具の後処理をしてそれをゴミ箱へと投げ捨てると、しょうがなしに、といったふうに、裸体を隠しもしない女に背を向けて、ベッドの端に腰かけた。
「あんたの自慰に付き合ってあげたんだよ? 結構体力だってつかうのに、その言い草ってないよねえ」
 肩をすくめて見せながらそう言った、男の不気味に蠢く肩甲骨を眺めながら、波江はおかしそうに笑った。「『付き合ってあげた』? いい、こういうのはね、お互い様っていうのよ」。
 乱れたシーツが更にぐしゃぐしゃになるのも構わずに、ベッドの上で脚をすべらせて移動し、彼女は床へと降り立った。先ほどまで意思をうしなったようにシーツの上で広がっていた黒髪が、いまでは重力に従って、すべてがすとんと背に沿って流れている。均整のとれて引き締まった、でもそれでいて女性らしいまるみを帯びた裸体を、誇張するでもなく、彼女はいつものように背筋を伸ばし、歩き出す。臨也の目の前を通り過ぎ、裸のまま部屋を出ていく、その様子を男はじっと無言で眺めていたけれども、女のほうは、ついに一度も彼のほうへ視線をやることはなかった。
作品名:その理性の内の野性 作家名:浜田