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すぎたこう@ついった
すぎたこう@ついった
novelistID. 1430
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支配欲

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躊躇いの無い勢いの良さで突き立てたペン先が、ガリリと比較的柔らかめの壁を抉った。ひゅ、と飲まれた息の音が耳に入って、今まさにこの人を追い詰めているのは僕なのだと云う事実を認識する。規格外の存在である静雄さんと張り合えるのだから普通ならばこの程度の動き簡単に避けられる人だろうに、不意打ちを喰らうと彼は意外に脆いらしい。随分と憎たらしいくらいに可愛いげのある人だ。

「臨也さん、そろそろ僕の物になってくれませんか?」

「ッ、帝人くんさあ、性格変わり過ぎじゃない?」

「そんな、僕は何時も通りですよ。」

警戒はしているにせよ、無防備とも言える程にさらけ出された白い首筋に生唾を飲み込まざるを得なくなる。逃げられる勝算があって未だ余裕を見せているのかは知らないが、こうもあっさりと動きを止められるなんて、彼に甘んじて受け入れる体制でも出来ているんじゃないかと勘違いをしてしまいそうだ。本当にそうあってくれれば一番手っ取り早いのに、実際蓋を開けてみた所でこの人の頭の中には別の人物が既に巣喰って居るのだろう。ああ、苛々する。

「それとも、矢っ張り静雄さんの方が良いんですか、」

「…なんでそこで、シズちゃんが出てくんのさ。」

「なんで?理由なんて貴方が一番分かってると思ってましたけど。…まあ、強いて言えば嫉妬…ですかね。」

高ぶる気持ちを落ち着かせる為にカチリ、カチリ、と二、三度突き立てたままのボールペンをノックする。こちらの機嫌の負への変化を敏感に察したのか、緊張感と共に目立ちはしない喉仏が、それは煽情的に、ゆっくりと上下した。果たして関わってはいけないとまで言われる折原臨也ともあろう人物が、一介の高校生相手に何をそんなにも怖がることがあるのだろう、寧ろ疑問にすら思えてしまう。衝突する事無く頭の中を巡る二つの相反した考えに、ふと苦笑が漏れた。



「ねえ、帝人くん、…君は結局さ、僕の事をどうしたいが為にこんな真似をしてるの?」

「どうってそりゃ、僕も一人の男ですから、」

言わなくても分かるでしょう。言葉を続けながら今まで使用していなかった左手をシャツの中に忍び込ませた。固形物をきちんと食べているのだろうかと心配になる程細い身体が微かに震えるのを見て、今まさに自分が彼を手中に収めているのだという事実を喜びと興奮と共に再確認する。純粋な脅迫の意味でのノック音をカチカチと耳元と部屋に響かせつつ、何と無くまどろっこしくなってそのまま衣服をたくし上げた。表面に顕れていないだけか思ったよりも筋肉が付いていない腹部に視線を送って笑みを零すと、確実に嫌悪を含んだ声が上から降って来る。

「…前々から思ってたけど、君って相当悪趣味、ッ」

「あれ、褒めて下さってるんですか?ありがとうございます。」

「そういうとこ、何、わざとなの?」

もうこれ以上僕の好きにされるのは御免だと思ったのか、溜息と共にいよいよ逃げんと身を翻そうとした彼の耳へボールペンが突き刺さる。日頃の慣れからか反射的に顔を逸らした為に、付いたのは掠り傷のみで声を出すのは何とか免れた物の、余程驚いたように目を見開かせて息を飲んだ。静雄さんに拳を入れられた時にすらしないような、僕だけが作る事の出来る表情に快感すら覚えそうだ。

「此処まで来て、易々と離したりしませんよ。大人しくしていて下されば傷付けずに済むんですから。」

「っ、…最近の若者は、何しでかすか分かんないから怖いよね。」

「若者だって臨也さんには言われたくありませんよ。」

「それも、そうかもね…」






「帝人くん、あのさ、」

「はい、…っ?」

沈黙の後の呼び掛けと同時に顔を上げた瞬間彼の唇が僕のそれに柔らかに触れ、気を取られた間に先まで捕われていた身体は再び自由の身に。一切の隙は作るまいと心に決めていたにも関わらず、たった一つの行動でまんまと策に引っ掛かってしまった。これが様々な意味に於いての経験の差だろうか、意識せずとも心臓が何時もより早く動いてしまっているこちらとは反対に、何食わぬ顔で、それでも若干の警戒も含め距離を置き小さなナイフを手の平で弄びながら目を細める。怒っている様子は見受けられないが、今更この状況から彼を拘束するのは難しいだろう。

「こういうのさ、君にはまだ早いんじゃない?」

「そうみたい…ですね。」

血液のこびりついた片耳を少し気にして、しかしまるで何事も無かったかのように手をひらりと振ってからその場を去る。まだ間に合う距離の範囲内に彼の姿を見ながら、深追いはせずに黙って背中を見送った。どこに行くのか、それが何と無く分かってしまって、目線を動かさぬままひたすらにボールペンのノックを何度も繰り返した。













「今は無理でも、いつか必ず手に入れてみせますよ…臨也さん。」



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シズイザ気味な続き(後日談?)が頭に浮かんでるんだけどどうしよう。
ちょっとした矛盾はお見逃しを。
作品名:支配欲 作家名:すぎたこう@ついった