噛み跡.
ライオンの雄は、えっちの最中に、雌の首筋を噛むんだって。
まるでシズちゃんみたい。と、そいつは、シーツに包まってうつ伏せのまま、けらけらと笑った。なんかね、雌が逃げていかないように、噛むんだって。ねえ、そんなに、独占欲?強いのかなあ。そして雌は、噛んでいないと逃げてっちゃうのかなあ。もう目線はこちらを向いていない。枕に顎を乗せて、真っ直ぐ、けれど定まらず、心此処にあらずと言った風でどこかしらを眺めている。シーツから細く伸びる生白い足に、何故か咽を渇きを覚えた。それはふらりふらりと上下に揺れて、まるで誘っているかの如く。悔しいのだけれど、すこしだけ、ほんのすこしだけ触れたくなって、その、首筋に手を伸ばした。他意はない。
なあに?傷、治してくれるの?またけらけら笑う。そのこえは普段はひどく耳障りなくせに、どうしてか今はとても心地良い。性欲が解消されているからか、と、ぼんやり思ったのだけれど、それは定かではない。取り敢えず、艶めかしいその陶磁器のような首を撫でた。一瞬、そいつの身体がぴくりと震えて、それから、ほう、と吐息を。それに、僅かながらむらっと来たのは、男として仕様のないことだと俺は思う。だってその溜め息が、あんまりにもある種の色気を孕んでいるもので。ゆっくりとそこを撫でると、すこしの凹凸が感じられた。成る程。すこし強く噛みすぎたか。そう思うが、次回から活かす気はさらさらない。舌を這わせた。
えー、ちょっとー、まさかほんとにライオンじゃあないんだからさー、舐めて治すとか言わないでよねー。けらけら、けらけら。そのこえは止まない。そいつの肩は、可笑しくて仕様のないみたいにかたかた震える。なんだかちょっぴりむっとして、また、歯形を付けようと歯を立てた。肌の味。鼻腔を擽るシャンプーの匂いと、あとは、ほんのりとした情事の色香。がじ。先程よりも強く噛むと、口内に、血液の味が広がるのが判った。あ、やばい。
途端、どうしようもなく興奮してくるのが判った。そいつは、思いがけなかった痛みに、抗議のこえと視線を投げかけてくる。しかしそんなものは大して気にならないのだ。情欲が、ぬめぬめと背中を這う。かさついた唇を舐めると、鉄の味が濃くなった。
動物的な、交尾をしようか。
(目的は果たされないのだけれど。)