城之崎さんの日常
私が仕えている家は所謂「裏の仕事」、少し前であれば「必殺」と頭に来るテレビドラマのような事を生業としている家です。その中で私は主に情報収集と「掃除」を担当しております。自慢ではありませんが私の仕事、特に「掃除」についてはこの国でも一番と自負しております。少し前であれば「埋葬虫(しでむし)」と呼ばれていた、私のライバルが居たのですが、ある日からパッタリと彼の名前を聞かなくなりました。足を洗ったのか下手をうったのかわかりませんが、突然居なくなることはこの世界では珍しいことではありません。
そんなある日、専属契約をしている彼から問いかけられました。「城之崎さん、仕事のない日は何してるんですか?」と。
私は答えました。
「朝は、近所の小学校の通学路で登校中の小学生を捕まえて相撲を取ってます」
すると彼は、少し怪訝そうな表情でこちらを見てきます。何か、おかしな事を言ったつもりはないのですが。
「なぜ・・・小学生と相撲を?」
「勝てるからです」
彼は、信じられないものを見る目で私を見てきます。私にとって、小学生との相撲は日々の仕事で溜まったストレス解消にとても有効なのです。例え勝てないと分かっていても迷いなく全力で向かってくる無垢な心が私の中に積もり溜まった「垢」のようなものを洗い流してくれるのです。もちろん、そこには「勝利」という結果があってのことです。「勝利」という経験は何者にも代え難い甘美な果実なのです。
ただ、最近は私が小学生たちと相撲を取っていると、すぐに刺股を持った教師が向かってくるため、ストレスを解消しきれないこともあり、場所を変えようかと考えています。
「は、はぁ・・・。では、昼は?」
「ピラティスとマツエクに行ってます」
裏の世界の住人とは言え、やはり身だしなみは大事です。特に、私は情報収集を行わなければいけないため、なるべく相手を不快にさせないように気を配らなければいけません。「メラビアンの法則」にもあるように、初対面の時の印象は、見た目が半分以上の影響を与えるのです。綺麗な姿勢を取るだけでも相手の警戒心をほんの少し下げることが出来るのです。
マツエクは単なる趣味ですが。
「あー・・・では、夜は?」
「公園で松ぼっくりを拾ったりしてますね」
夜の公園は、ある種の人間にとっての「社交場」です。ヤンチャな若者たち、人には言えない事情を抱えた女性たち、そして私達「バトラーV」の情報交換とレクリエーションの場なのです。
「バトラーV」は、私がいても良いのか悩むくらいに素晴らしい方々が所属されている互助組織です。その存在は、元が華族・士族へと辿れる、所謂上流階級の使用人にのみ伝えられている都市伝説的な組織です。所属しているのは、その中でも最上級の家の上級使用人、いわゆる家令や執事といった職務の方々です。なぜ、私がそのような組織に所属しているかと言えば、先代に拾われる前はとある家で執事を任されていたからです。
実を言えば、私が得てくる情報は、この「バトラーV」から得ていることが多いのです。優秀な方々の集まりですから、その情報の多彩さや、精度・角度は目を見張るものがあるのです。彼らにはいつかお返しをしなければと思うのですが、如何せん、今の業務でも彼らのほうが私よりも上手に行うことができるのです。
「ああ、そうですか・・・」
そうして、「バトラーV」の方々のことを考えていた私が、彼が立ち去っていたことに気づいたのはしばらくしてのことでした。
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「だって、すごい綺麗な目していうんだぜ」
(Fin)
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(注1)埋葬虫(しでむし) :「廃優」(牡丹茶房)から拝借
(注2)バトラーV :「晴れのちシンデレラ」から拝借
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