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last advent(2/4)

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「セフィロス、あんたは居候だ。家主である俺に家賃を納めてくれ。この家を維持するのだってタダじゃないんだ」
クラウドの言に、セフィロスはひとつ瞬きをした。
「生前の私の遺産は?」
「何年前の話だよ。とっくにWROに接収されてると思う。旧神羅関係の財産はそっちで管理されてるし、取り戻すのは不可能だ。遺産を寄越せなんて名乗り出てみろ、すぐに捕縛されて封印されるぞ」
「……私に、労働しろと?」
「合法的手段で納金をお願いします」
セフィロス相手に甘くなる必要などどこにもない。むしろ宿敵を居候させてやっているだけでもありがたいと思え、とばかりにクラウドは厳しい態度を崩さなかった。世界を混乱に陥れた戦犯を市中に居住させるのはどうかとも思ったが、放り出すより手元で管理するほうが安全だろう。クラウドには一応星の守護者の自負もある。それに、星の意思が信じて送り出してくれたのだから、きっと大丈夫だ。



目下の問題はセフィロスの身柄の扱いと人としての生活の確保だった。
町に定住し、定職に就くには市民IDは必須である。クラウドの身元はWROの保証を受けており、特別なIDを支給されている。今は亡きリーブがいつでも人の世に溶け込めるようにとクラウドに残してくれたものだった。厭世観に苛まれ、人としての生活を放棄していたクラウドは今までその遺産を頼ったことがなかった。WROの現在の代表は組織発足から七代目の後継になるらしいが、顔を合わせたこともない。しかし末代まで必ず守り抜くようにとの遺言を違わずに遂行してくれている。なにせIDは信用がそのまま可視化されたようなものである。クラウドが今久方ぶりに触れる人の世に溶け込めているのは他ならぬリーブの気遣いのおかげだった。
セフィロスの名は、公にはウータイ戦役の英雄として歴史書に小さく記録されているのみである。それ以降の彼の記録は神羅によって入念に消し去られていた。しかし、WROのデータベースにはメテオを招来した恐るべき世界の敵として記録されている。世界に災厄を呼んだ張本人、その身元保証をWROに依頼できるほどの厚顔さをクラウドは持ち合わせていなかった。セフィロスの戸籍は自力で用意するしかない。ID自体は闇市で工面できるが、それなりの伝手と金が要る。クラウドは頭を悩ませた。
現在クラウドが住処にしている家は元々農家の小作人のための小屋だったらしい。玄関を入るとすぐにリビングと一体化しているダイニングキッチンの一室、その奥に申し訳程度のシャワー室と寝室がひとつきりの簡素な家である。ミッドガルで一時暮らしていたスラムのアパートよりは広く、クラウドひとりで住むには申し分ないが、そこに体格のいい男が加わると手狭だった。
セフィロスはこの共同生活に文句をつけてこない。言わないだけで内心はどう思っているかは分からなかったが、狭い家屋の中にでかい男が詰められている光景は圧迫感があり、精神衛生的によろしくない。クラウドの中にいまだ残る過去の英雄像を汚したくない、という思いもあった。
特に、寝室が問題だった。ベッドとクロゼットで目一杯になっている寝室に身を横たえられるようなスペースはない。セフィロスはリビングのソファをベッドとして使用しているが、横になっているところをクラウドは見ていない。あの巨躯ではソファに収まりきらないだろうことは分かっているが、他に寝させられるところもない。かといって納屋にバイクと共に寝泊りさせるのはさすがに気が引けた。
引っ越すなり改築する必要がある。それにはやはり、先立つものが必要だった。配達業の稼ぎだけではとうてい賄えない。
とにかく金が足りないのだ。災厄セフィロスを社会復帰させ、金を稼がせようと考えるくらいには。

セフィロスは神羅以外で働いたことはないという。人間を相手取ったまっとうなサービス業など以ての外で、できることといえば戦闘しかない。
クラウドは彼が纏っている戦闘服に似た黒いコートと打刀を購入し、装備を整えさせた。
幸か不幸か、メテオ戦役から百有余年が経った今、文明は停滞していた。装備品の質や流行はさほど変わっていない。世界中にライフラインを布いた巨大な組織の崩壊や、伝承と思われていたメテオの墜落。そんな未曾有の災害と、星命学の普及による自然回帰の流行も相まって、人々は技術革新から遠ざかっている。

セフィロスは町並みを見渡した。背の低い木造の建物が並ぶ市中には朴訥とした雰囲気が漂っている。商店の立ち並ぶメインストリートにはそれなりに人出があるが、混雑するほどではない。食料店の他は農具や金物を扱う店が多く、なだらかな坂の下には耕作地が広がっている。農業で成り立つ町なのだと窺えた。
見るからに鄙びた農耕地に武力を揮う仕事があるというのか。まさか農業に従事されられるのか。胡乱げな視線を感じたのか、次の目的地へと足を向けるクラウドが歩みを止めぬままに背後のセフィロスへ振り返った。
「まずは信用を得ないとな。あんたは第一印象が悪すぎるから」
「私が悪人面だとでもと言いたいのか?」
「少なくとも善人って面じゃないだろ」
軽口を真に受けたわけではないが、セフィロスは商店のガラスに映る自分の姿を見た。夜行生物のような縦長の瞳孔が鋭利な印象を与える貌。長身と厚みのある体は力を揮わずとも他者を圧倒する雰囲気がある。その前を行くクラウドも剣を振るうに相応しい体つきではあるが、幼げな雰囲気を残す甘い顔立ちのせいで戦士らしい厳めしさは薄れている。凛々とした表情は緩むと不安げにも見え、セフィロスからしてみれば隙が多く危うさを感じるのだが、他者にとってはその隙こそが親しみやすさなのだろう。
ガラス越しのクラウドがにやりと口角を上げた。
「まあ、隕石を落そうと躍起になってた頃よりはいい顔してるよ」
作品名:last advent(2/4) 作家名:sue