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高山 南寿
高山 南寿
novelistID. 71100
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海のはじまり アナザーエンド

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海のはじまり アナザーエンド 
           
               高山南寿


 弥生は電車に乗ってドアの脇に立っていた。外は一面オレンジに染まっていた。

 夕暮れは、ただでさえ淋しい。

 彼と別れて一月、苦しくて別れたけど、今は悲しくて苦しくて、愛しい。

 自分の幸せのために別れたって、なんだろう?

 やがて忘れる時が来るのかな?

 それでいいのかな?

 それを選んだのは私、夏は海ちゃんを選ぶしかない。

 きっと私だけを選ぶことはできない。

 わかっていて別れを突きつけた。

 私の身勝手?

 それが私の幸せだから?

 もう別れてるのにどうしてこんな堂々巡りなこと考えてるんだろう。

 電車は夏の家に行くとき降りる駅を通り過ぎようとしていた。

 高架から見える道を夏が歩いていた。

 弥生は夏にすぐに気が付いた。

 人が多く歩いているのに、弥生には夏にスポットライトが当たってるかのようにすぐにわかった。

 弥生はドアの窓に顔を押しあてんばかりに夏を見た。

 そして、大きなため息をついた。

 夏を見ちゃった。

 海ちゃんに呼ばれて何回か会っているけど、今突然に夏を見て、すごい距離を感じた。

 人がいっぱいいても、すぐに夏とわかる。

 なのに距離がある。

 お互い違う方向に進んでいる。

 もう交わらない人生に向かっている。

 弥生は上を向いて涙が流れるのを防ごうとしたが、無駄だった。



 弥生は前に中絶をしたクリニックに来ていた。

 すこし不正出血があって検査を受けにきた。

 会計を待つため、ソファーに腰掛けていた。

 待合に感想ノートがあった。

 弥生は中絶した後、記入したことを覚えていた。

 見たくなって、棚の古いノートをあさった。

 それらしきノートを見つけた。

 紙が貼りつけてあるページが自然と開いた。

 弥生が書いたページに紙が貼りつけてあった。
 
 「あなたが書いたことを拝見しました。

そして、私なりに考えて、私自身の幸せのために、中絶をやめて生むことにしました。

あまり人の意見に左右されるほうじゃないんだけど。

あなたの言葉ささりました。

海を生んで本当によかった。

幸せでした。

でも私、病気にかかって余命幾ばくもなくなってしまいました。

子供の父親には恋人がいるようで、私の死んだ後、父親や恋人に迷惑をかけることになってしまいそうです。

父親として生きてほしいけど、私が勝手に生んだことで彼の人生を占有してしまうことがいいのかわかりません。

彼女さんにも自分自身が幸せになる判断をしてくださいと手紙を書いたんだけど、それで良かったのかわかりません。

私の自分勝手でみんなを不幸せにしたんでしょうか?

いや、不幸せにしようとしてるのでしょうか?

私はみんな、心のままに生きて欲しい。

アドバイスをくれたあなたにもう一度意見を聞きたかった」 南雲 水季

 弥生は手紙を読んで、涙した。

 私が書いたこのノートを読んで水季さんは海を生んだんだ。

 海ちゃんはそれで生まれてきたんだ。

 良かった。これを読んで、海ちゃんを生んだ水季さんに感謝する。

 違うかもしれないけど、つながりを感じる。

 私が海ちゃんの母親になりたい。

 私の言葉に共感してくれた水季さんにこたえたい。

 そして。気持ちのまま、夏に飛び込んでいきたい。



 タクシーを拾った弥生は晴れ晴れとした顔だった。

 夏と海が住むアパートに向かった。
 
 夏は晩御飯の片づけをしていた。

 海ちゃんはお風呂に入ってる。

 夏は洗い物をしながら、ふと弥生さんを思い出す。

 今頃どうしてるだろう。

 やっぱり、そう簡単に忘れられない。

 忙しくしていると少し忘れるが、いつのまにか弥生さんのことを考えている。

 海ちゃんを選んだことは間違いと思わない。けど、今も弥生さんが好きだ。愛してる。

 インターホンが鳴った。

 こんな時間に誰だろう。弥生さん。そんなわけがない。

 ドアの前に立っているのは弥生さんだった。少し思いつめた感じの弥生さんがいた。

 部屋に招き入れた。

 玄関に立った弥生さんは「あのね、ちょっと話が......」

 言いかけて弥生は部屋を見渡した。

「海ちゃんは?」

「今、お風呂に入ってるよ」

「そうなんだ。いない時に言っちゃうね。

私、夏が忘れられない。乗り越えられると思うから、もう一度、私と付き合って。勝手なこと言ってるのはわかってる」

「......」

夏は何も言わず、弥生を見つめてる。恋人を愛おしいという目をしてる。

「なにも言ってくれないの」

 弥生の目にはもう涙が溢れている。

 夏は弥生を抱きしめた。

「僕も忘れられなかった。愛してる、愛してるよ」

 しばらく抱き合っていたが、一度離れて、口づけをして、また抱き合った。

「ごめん、上がって」

「うん」

 弥生は部屋に上がって、リビングに正座した。

 夏も正座した。

「来てくれて嬉しい。なにか、あった?」

「わかっちゃうんだ。なにかあったって」

「......いや、わからないけど」

「実はね、今日検査で婦人科のクリニックにいったの。私の体は特に異常ないみたいだか
ら、検査のことはいいんだけれど」

「そうなんだ」と夏は小さく頷いた。

「クリニックに感想ノートがあるんだ」

「うん」

「私が中絶した後の気持ちを書いていたの。それを水季さんが見て、海ちゃんを生むことにしたんだって」

「それを見て、水季が中絶をやめたってこと?」

「そう、すごい縁だよね」

 そう言って、弥生は夏をじっと見ながら、続けた。

「それで勝手に海ちゃんとのつながりを感じちゃった」

「そうなんだ」

「勝手に、責任あると思いたくなった」

「うん」と夏は短く返事をした。

「私、夏と別れて限界だったから、なんでも理由つけてもどりたいんだ。いい?」

「......いいよ。うれしいよ。でも三人でいると辛くならない?」

「三人でいたり、海ちゃんのおばあちゃんと話したり、辛くなることはきっとあるけど。
夏と別れるくらいなら、乗り越えられる。海ちゃんとの縁があると思えば頑張れる気がす
る」

「ありがとう、もう一度、やり直そう」

 夏は涙を浮かべた目で弥生を見ながら言った。

「ありがとう」

 弥生も泣きながら返事をした。

 お風呂の方から音がした。

 二人は涙を拭いた。

 お風呂から海ちゃんが出てきた。

「あれ、弥生ちゃんどうしたの?」

「おじゃましてます」

 海ちゃんは二人の顔を見て聞いた。

「どうしたの、二人とも泣いてたの?」

「泣いてないよ」と夏が言った。

そして目が線になるくらい笑顔になった。

「もう一度、三人で遊ぶようにしようって言ってたの」と弥生も笑顔で言った。

「ほんと? やったー、やったー」

 海ちゃんは飛び跳ねて、そして弥生に抱きついた。




 波のしずかな砂浜

 海ちゃんが波打ち際を歩いている。

 少し離れて夏と弥生が歩いている。