いつか背骨が溶ける日まで
真実、束の間の休息。そのほとんどの時間を通して会話は一方通行に流れた。
並盛が海に沈めばいいのに。この星の氷全部溶けたって沈まないのはわかってる。でも染めばいいんです。沈んでしまえば、そうしたら、オレはみんなが夢のなかにいる夜に、海へボートを浮かべるんです。
オレにも扱える小舟で。食糧を詰め込んだ鞄を背負ってオールで必死にこぐんです。富士山を目印にオレはきっと並盛を見つけられるでしょう。勘の良さは折り紙つきですから大丈夫。
そして見つけてびっくり。かつて鳥が飛んでいた並盛の空は魚が飛んでいてオレは驚きます。街を見るにしても目線の高さが違うから違和感があって、でも懐かしくて。オレは並盛の道に降りたくなってしまうはずです。酸素ボンベもゴーグルも水着もないのに、そんなことできないのにオレは、オレは
「君は?」
はっとするほど鋭い声が響く。おそらくどんな銃声と罵声の中でさえ鋭く美しい声だろう。いつの間にか作るのに夢中になっていた世迷話さえ叩き切って、耳の奥を突く。うん、鋭い、美しい、怖い、大切な声だ。
「君は、それでどうするの」
「どうするもなにもないですよ、言っときますがこれいやいや作ってる話ですからね。あんたが何か話せって言ったから」
「いやなの、君の話はほとんど与太噺だから丁度いいと思ったのに」
「あんたとベッドに仲良くはいることはオレにとってコントです。気が合いますね」
「で、結末は?考えてないのかいその妄想話」
「ありますよ。いたって簡単なオチ。"そんな夢を沢田綱吉は、執務室で見たのでした"」
「まったくいつもの君だね」
「そうですね」
「ふうん、まあいい。そろそろ第二幕が始まるみたいだ」
「"そんな、夢を見た後、突然沢田綱吉は抗争に巻き込まれます。そしてこの夢の話を彼は暇潰しにとあなたに話します"」
ああ、遠く近い場所で誰かが今安全装置を解除した。確かにまた抗争が再開されるんだろう。
「"沢田はあなたに言います。あの街が海に沈む前に、ヒバリさん"」
さっさっとこの話、終わらせよう。
「"帰りましょう、一緒に。ひとりでは、本当はどこにも行きたくないんですよ"」
銃声ひとつ間抜けに響いた。開幕だ。「めでたしめでたし」そういい逃げして沢田綱吉は最前線へと突っ走る。背後で一瞬の沈黙の後殺気が爆発し膨れ上がった。ロールちゃんを出したらしい。だがその殺気がなぜか自分に向かっている。照れてるのか雲雀恭弥あんたが、なんてこったい。
でも丁度いいのでオレは自分の身を雲雀恭弥の餌にして敵陣に突っ込むことにした。ただ前を走る。もう走りたくないなあ、でも走る。
それにしても何をそんなに怒っているのか。オレからのプロポーズがそんなにダメだったのか。笑いだしたい。これはまあ、ちゃんとしたシチュエーションで言い直してもいい。
だけど、オレは二度と言わない本音をあなたに言ったんだからいいじゃあないか。
オレは確かにひとりでは、本当どこにも行きたくない。
だけどオレはひとりで征くんだ今はただ。
作品名:いつか背骨が溶ける日まで 作家名:夕凪