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アルカディアの地下道

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久方の帰省はプライベートではなくビジネスだった。なので今回、沢田は商談を成立させたならばすぐさま自家用ジェットに運ばれる身の上である。故郷を楽しむ間などハナからスケジュールに組み込まれていない。とはいえ、一応の帰国。沢田は故郷へと繋がる土を踏めることに密かな価値を見いだしていた。
 ところが着いた先で知らされた接待場所は島。それも古来からある島ではなくここ2、3年内で誕生した島だった。


 自分の故郷であるこの国は今、いろんな声を無視して人工島を作り続けている。



 聞いてはいたが、その様をみる段階でやっと沢田はその事実を感じることが出来た。
ため息と共に首をかしげる。ゴミの埋め立てか何だかは知らないが、少子化で人口がジリジリ減っているというのに、島なんか増やしてどうするのだろう。
 この国はもともと島国で周囲には7千くらい天然の島がある。そしてその内500くらいの島に人が住んでいる、らしい、先生が叩き込んでくれた雑学ではそうなってる。

 本当にこれ以上増やしてどうするんだか。

 今から向かう島はさて何個めの人工島か。呆れてしまうほどの熱心さにため息がとまらない。もしかしたら島を作ることよりも、海を削り取っていくことが目的なのかもしれない。

 最も、環境破壊という点では沢田も同じことを故郷に行っている。攻撃対象から除外されるよう、自分の痕跡をことごとく消したあの街の地下に。いずれ無駄になってしまうものを作ってしまった。

 
 あの懐かしい街の地下には秘密基地が2つ並んで存在している。


 会談場所へ向かうため、早朝未明ハイウェイを突っ走る車内で、沢田はぼんやり思いを馳せる。
 もし、地上から人類がみんなバイバイした後、どっかの星から高等生命体が観光にきたとしたら。かつて無駄に島を作った国があったことに気が付くだろうか。あの二つ並んだ地下施設に気付くだろうか。その二つの施設がこの世でもっとも長く短い通路で繋がっていたこと、それが愛であったことに気付くだろうか、と。





アルカディアの地下道・・・ギリシアのアルカディアからイタリアのナポリへ通じる地下の通路で、不幸な恋人達によって利用されるべきもの。

出典:架空地名大辞典
作品名:アルカディアの地下道 作家名:夕凪