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致死の愛

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一歩歩を進めるごとに凍りついていきそうな2月某日。

少年は青年にその愛を告げた。

その夜、青年は長年棲みついた街を捨てた。




致死の愛




「見つけたぞ、いぃざあぁやあああ!!」

「あれ、ここは池袋じゃないはずだけどな。脳ミソ退化して、自分のテリトリーすらわかんなくなっちゃったの?」

「うるせえ!今日こそは、本当に、てめえを殺す!殺してやる!」


突如現れた平和島静雄は、新宿の街を破壊した。おそらくこれが最後の機会となる、天敵の抹殺のために。どうして気づいたのかは臨也にしてもわからない。野生の勘か。それとも。共通する知人である少年の姿がちらちらと脳裏に浮かぶ。彼が何か言ったのかもしれない。もうすぐ成人を迎えるにしては子供のような容姿をしている彼を、やけにこのバケモノは気に入っているようだから。それは、少年が情報屋に向けるのによく似た想いなのかもしれない。

飛来してくる電話ボックスを避けながら、思いを馳せる。

あれほど愚かだとは思わなかった。

非日常に憧れる少年が、暗躍する情報屋になにかしらの情を抱いていることは知っていた。敏くはないが聡い子どもだったので、それを表に出すことは決してないだろうと思っていた。その正体を深く追求したこともなかった。少年には大切なものが数多くあったし、一時の恋愛感情でそれらを振り落とすには、彼は潔癖すぎた。だから、少年は決して彼の親友を傷つけた男を許しはしないだろうし、その変えようのない事実の前には、自分の感情すら切り捨ててしまえる。その非情な面は、奇しくも臨也の仕掛けた罠の中で生まれたもので、その進化に臨也は満足していた。その日までは。

少年は、いくら憎んでも足りないはずの、しかし決して切り捨てることもできないという忌々しいはずの男に、愛の告白をした。男にとってそれは全く予想外のことだった。彼らは出会って数年来、綱渡りのようにぎりぎりながらも良好な関係を保ち続けてきた。だから、情報屋は慢心していた。その点ではまんまと出し抜かれたとも言える。

全く喜ばしくない告白を受けた青年は、ありとあらゆる言葉で、お気に入りの少年を罵倒した。今まで彼の前で崩すことのなかった甘いマスクをかなぐり捨てた。彼に気の迷いだったと思い直させるために。

侮っていた。臨也が態度を激変させたことにも彼は動じなかった。告げた時点で、既にすべてを覚悟していたのだろう。特定の人間を愛さない臨也にとって、彼の気持ちなど利用価値のみで測られるもので、報われる事は絶対にない。そんなことは百も承知で、彼は、利用するならすればいいとばかりに自分自身の柔らかな心を差し出した。今までの臨也の崇拝者と決定的に違ったのは、それは逃げるために、思考を放棄するために、臨也に縋るために、差し出されたのではないということ。そして、一時の熱に浮かされたものですらなかった。

まっすぐで冷淡な眼差しは、理知に満ちて穏やかですらあった。

臨也には、そんなもの理解できない。

それでも、臨也は理解出来ないほど面白がるような酔狂な男だったし、差し出されたものならば当然のごとく受け取り、絞り尽くせるまで搾り取った。それができる男だった。

そう、それが、竜ヶ峰帝人でさえなければ。

臨也が人間と認めるものの中で、唯一の例外。それは、目の前で怒り狂う化物なんかとは比較にならないほどに、恐ろしい。

ひらりひらりと逃げながら、敵のテリトリーに踏み込んだ愚かな元同級生を目的の場所に誘導する。投げられた自販機の直撃を受け、破壊されたものが何かも静雄は気づかない。本能的なものにかられたのか動きを止めて上を見上げるももう遅い。自動喧嘩人形に向かって鉄材や鋼材が次々に降り注ぐ。圧倒的な物量と重力に味方された重量に、さすがの池袋最強の男もあえなく下敷きになった。

いつの間にか避難していた臨也は、天敵の情けない顔を見るために、その目前に身軽な動作で降り立った。

「今なら、シズちゃんを殺せるよね」

鉄材に埋もれながらも殺意を失わない釣り上がった目が、愉快だ。決定的に異質なものを見る目。臨也に注がれるものはこうでなくてはならない。そして絶対的な優位性。自ら手を下すことなく、観察対象が破滅していく様子を見守る道化師。それこそが折原臨也だ。

あんな歪んでさえ純粋なところを失わない少年と共に愛を紡いでいくような愚かな結末は似合わない。

それは、もしかしたら、殺したいほど嫌悪するこのバケモノには似合いかも知れないが。

「やっぱやめた。帝人くん泣いちゃうし」

すっかり埃塗れになってしまったトレードマークのコートを翻し、黒い男は踵を返した。さっさとこの街を出てしまおう。東京を出て、西へ行こうか東に行こうか。海を渡るのもいい。あの少年の目の届かないところで、人がいる街ならどこでもいい。

「てめえ!!!ノミ蟲なんかが帝人のことを口にするんじゃねえ!」

ポケットの中を探り、USBメモリを手探りで掴む。後ろに放り投げると、かつんと小さな音をたててアスファルトにぶつかった。

「それ、俺の、帝人くんに関する全データだから。好きにしなよ」

「この卑怯者!また逃げんのかよ!」

この直情的な男がかつて熱情のような気味の悪いものをこちらに向けていたことを、性悪な男は知っていた。そのお返しは社会的破滅で、憎しみに転化するに足る理由を与えてやったつもりだ。だから、今は帝人に向けている視線がそうであることに気づいたのかもしれない。帝人がそれがすべてだと信じている柔らかな慈愛のようなものを一皮剥けば、醜い欲望が隠れているのだと。

もしかしたら、帝人からのそれにも気づいていたのかもしれない。何もする気にならなかっただけで。個人の執着なんていうおぞましいものはいらなかったのに、帝人はあまりにも、何かが違ったのだ。

それを追求するつもりは永遠にない。追ってしまえば、見つけてしまえば、臨也の生き方の根幹が終わってしまう。

「待て!」

「待つワケないだろ。馬鹿だなぁ。ああ、でも丁度いいから、伝言頼まれてよ、シズちゃん。もし、帝人くんが俺のこと知りたがったら言っといて」


『君に敬意を表して、俺は最後の一人になるまでダラーズにいる』


後ろで唸る獣はきっと伝えるだろう。彼は泣くだろうか。透明な涙にのせてその愚かな感情も押し流してしまえばいい。そんなもの君には必要ないのだから。君にふさわしい愛を与えられない男なんかさっさと忘れて生きていけばいい。


竜ヶ峰帝人。他の人間より少しだけ興味を持ち、少しだけ多く接触して、少しだけ気に入ってて、もしかしたら、ほんの少しくらいは特別だったかもしれない子。ほんの少し、そう涙一粒分くらいは。


さようなら。

愛されるべき君。


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『Just Be Friends』が臨帝に聞こえて仕方がなくてできた産物。静帝は『恋率方程式』とかハッピーで純情な感じ。いろは唄とロミシンは帝人受けとしてははずせない。誰か素敵静帝ソング、臨帝ソングご存知だったら教えてください。
作品名:致死の愛 作家名:川野礼