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『You're the only one』

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安っぽい派手な装飾のベッドの上、女は語りかける。

『ねぇ、どうして私を抱いたの?』

軋むベッドの上、男は唇を歪ませて答える。

『俺は、君(ヒト)を愛してるからさ。』

そう言いながら冷めていく心に目を背けるように、男は腰を揺らす。
口付けを望む女の顔に、誰かを重ねながら、ただ性欲を吐き出すだけの行為。
吐き気を飲み込みながら、女を残して男は部屋を出た。

愛している?フェイク!笑わせる。
いくらでも代えの利く消耗品。
吐き気がしたのは女に対してではなく、ただの性欲処理にまで付きまとう誰かの顔。
折原臨也は、浮かんだ顔と自分への嫌悪に顔を歪ませた。

出会った瞬間、マズイと思った。
全身が粟立つ感覚。
目の前の男を、欲しいと思った。
しかし彼は選択を間違えた。
抱かれた感情は憎悪。
平和島静雄は、その命をかけてでも折原臨也を追いかけ続けるようになった。
愛し愛される可能性はその瞬間に消え去り、憎しみだけが残った。
ただ、その選択が間違いだったとしても、彼にはそれ以外選びようがなかった。

平和島静雄は、他者との間に明確に線を引く。
傷つけてしまう可能性を潰すために。
彼の中の怒り、衝動、暴力は彼に抑止力を働かせない。
たとえ相手がどんなに大切でも、その衝動に彼は勝てない。
だから、自分に近づくものを明確に拒絶する。
傷つけてしまわないために。
例えそれが、自分を傷つける行為であったとしても。

ならば、彼が守ろうとはしない存在になればいい。
彼の中の全ての衝動をぶつけざるを得ないほどに、
彼に憎まれればいい。
折原臨也の選択は、その点に置いては最良であり
彼を手に入れるための唯一の手段なのだ。

自分でも最良の選択だと思っていたし、他に何を望むのかと
これ以上の選択などないと疑わなかった。
怒りと憎しみに燃えた目で見られると
例えようがないほどに興奮した。
自分にだけ向けられる明確な敵意。
あの憎しみの炎になら、焼き殺されてもかまわないと思えるほど
毎日が充実していた。
そもそも『愛』など幻想でしかないと思っていた。
全ての『愛』に対してではなく、慈しみの愛と呼ばれるような
およそ偽善的な『愛』に関して、彼は一切信用していない。

『自己満足、自己犠牲、それによって得る優越感のためだけに
 慈しみの愛などは存在する。まったく面白いものだね、人間って。』

他者を見下ろすように観察することで、折原臨也は神となり
物事を、人を、好きに動かすことが出来る。

子供の頃から、何事もソツなくこなすことが出来たし
何をすれば、どう話せば、他者が満足するかも知っていた。
結果、どうすれば人を思いのままに動かせるかも彼は理解していた。

ある時、そんな自分に絶望したことがある。
これ以上、自分の知的好奇心を満たせるものは
現れないのではないか?
そう考えると途端に虚しくなり、今まで興味を持っていたことも
全てどうでもよくなってしまった。
そんな時に、平和島静雄に出会ったのだ。
あの瞬間の興奮を、一生彼は忘れることはないだろう。
自分が求めていたものは、これなのだ。
予測不能の、奇跡とも呼ぶべき存在。

「やぁシズちゃん・・・久しぶりだねぇ。」

「・・・・池袋には、二度と来るなって言わなかったかぁ?臨也・・・・」

一番顔を合わせたくない時ほど、彼は目の前に現れる。
湧き上がる吐き気が倍増する。心臓が大きく波打つ。
視界が揺らぐ、目の前の君はどうしてそんなにも美しいのか。
その怒りに燃えた目を抉り取ってやりたい。
ショウケエスに入れて飾りたい。そう、あの首のように。

一閃、あの頃と同じように。
あの日あの場所で出会った時と同じように。

「・・・・・っ!」

でもこの刃は届かない。
あの綺麗な赤をもう一度見たかったのに。
かわされた刃は行くあてもなく、虚しく空だけを切った。

「へぇ・・・上手く避けれるようになったじゃない。学習能力あったんだ?」

「てめぇ・・・・ぶっ殺す!!!!」

結局、彼にはこの選択肢のみしか選ぶことは出来ない。
それは最良であり最悪。
選択肢は、他にもあった。
あらゆる手を尽くして、彼を篭絡しその腕の中へ閉じ込めることも
あるいは出来たかもしれない。
でも彼は、その選択を放棄した。

「捕まえてごらんよ、シズちゃん。一度でも俺を捕まえられたら、ご褒美をあげるからさ。」

青空のようなその声の主は、唇を歪めて笑いかける。
こめかみを掠るのは、どこから引き抜いたのか停止の標識。
皮肉だね、シズちゃん。
俺たちはもう、どちらも止まることなんか出来やしない。

「殺す・・・殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す・・・」

まるで呪文のように唱えながら、静雄は臨也を追いかける。
触れることのないギリギリの距離。
ともすればそれは、張り詰めた糸のように、簡単に切れてしまう絆。
誰にも理解出来るはずもない。
白と黒。裏返しの孤独。
臨也は、笑いを抑えることもせずにまっすぐに静雄を見つめた。

「アッハッハッハ!楽しいよ、静雄!早く捕まえてくれよ!」

「ふっっざけんじゃねえええええええええッ!!!」

まだ足りない。まだまだ足りない。
どうすれば静雄は、心から憎んでくれる?
知ってるんだ、シズちゃん。君は俺が君を思うほど、俺のことなんか思っちゃいないって。
口では殺すって言ったって、実際に致命傷になるようなことはしない。
だからさ、どこまでも俺は君を追い詰めるよ。
君が最後の最後、憎む理由すらなくすほどに俺を憎んでくれた頃、きっと俺が
ちゃんと俺が君を殺してあげる。
一つ、二つ、三つ、大切な物を一つずつ。
それが願い。俺の願い。

折原臨也の選択は、いつだって最良で最悪。
その唇が紡ぐ言葉が喩え・・・フェイクだとしても。


END
作品名:『You're the only one』 作家名:ame