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羽島幽平の笑えない話

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古くからの友人の話です。彼には、兄がいました。
小さな頃に行方不明になった兄が。未だに彼は見付かっていません。
どこかで生きているのかそれとも…そんな事は考えたくないけれど、今のこの国の行方不明者数などを考えるとひょっとしたら、とも思えます。
けれど彼、お兄さんは生きていると思っているんです。



何故なら、彼はね、神様に愛されていたから。



夏休みの終わりの事でした。いつも彼と遊んでいた兄が、数日間遊んでくれなかった。
当時の彼にはそれが悔しくて不思議だった。
…兄は、友達がいなかったから。
彼以外に遊ぶ人もいないのに外には毎日出かけていた。

彼は、兄の後をつけました。動物をこっそり拾って世話をしているのかもしれない。
面白いオモチャでも独り占めしているのかもしれない。そう思うと、いてもたっても居られなくなったのです。


そしてこっそりとついて行った先…兄は、神様と会っていたんです。

黒い服、黒い髪。その瞳だけが爛々と赤く光っていたのを覚えています。

彼は咄嗟に兄を呼びそうになりました。人さらいだと思ったのです。
でも声が出ない。赤い瞳に気付かれたら、どうなってしまうか分からない。
兄は神様の方を向いて笑っていました。あんな風に笑う兄は、数年程見ていなかった。
神様は兄の頭を撫で、耳を擽り、頬を撫で、それから。
生々しい光景が、彼から声を奪っていました。

そして、神様は兄の手を引いてゆっくりと歩き去っていったのです。
兄は嬉しそうに笑って小走りについていく。
一度も彼に気付く事なく。


そしてそれ以降、彼が兄を見る事はなかったそうです。
彼は確信したそうでした。そう、兄は神様に愛されたから連れていかれたのだ、と。













/さて、本当に友人の話なんでしょうか。
作品名:羽島幽平の笑えない話 作家名:佐藤