キスを5つ
「ありがとう」
からから、と玄関の戸を開けると、満開の桃色が目に飛び込む。薔薇の花束を抱えた人が立っていたのだ。
72時間も前からそわそわしていて、口元は緩みっぱなしだった。それほどに待ち望んでいた再会だった。
「いらっしゃい。お待ちしておりました」
「ああ。これ、ちょうど庭に咲いてたから」
「ありがとうございます。綺麗に咲いていますね。流石です」
受け取った花束に鼻先を埋めるまでもなく、豊かに香る匂いに、頬はますます緩んでしまう。自分を思いながら摘んでくれたのだろうか。どんな思いでここまで運んでくれたのだろうか。嬉しくて、花束に唇を寄せた。
「さ、お荷物を頂きます。中へ……」
室内に促すはずの言葉は、イギリスに飲み込まれてしまった。
「キスをする相手が違うだろう」
END.