キスを5つ
「いただきます」
「ホットケーキミックス……便利なものがあるんだな」
「アーサーさんのところにも、あると思いますよ?」
「そうなのか?」
「そうなのか、って自分の国でしょうに。いつだったかの買い物のときに、私は見かけましたが」
「ふうん。……じゃぁさ、今度家に来て作れよ」
「……嫁に来いと言われた気がしますが、気のせいですよね」
菊の隣に立って、しゃかしゃかとホイップクリームを泡立てていた、アーサーの手が止まる。白い泡を指先につけて味見をした。うん、と満足そうにうなづいて、さっきより多めにクリームをすくった。
目の前に白い泡を差し出されて、菊はあむ、と口に含む。瞬間、アーサーがにやりと笑うのに、嫌な予感がしたけれど、対処はできずに、結果唇を奪われた。否、ホイップクリームを奪われた、と言うほうが正しい。
「ふぁ……んっ――あ、あなたさっき自分で味見してたでしょう!」
「一度で二度美味しい。だろ? ごちそうさま」
「それはいただきますの後の挨拶です。まったくあなたって人は」
EMD.