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 C・I

 向い合って座る二人
A「あれ、そういえば奥さんは?」
B「梅沢富美男」
A「また!?」
B「今更驚くもんでもないだろ」
A「そうかもしれないけどさあ…マニアにもほどがあるだろ」
B「それ言ったらお前だって職質…今日もされたの?」
A「どっちだと思う?」
B「聞くなよ」
A「それがさ、今日職質受けなかったんだよ!」
B「お!進歩したじゃん!」
A「迷子になっておまわりさんに道聞いたけどな」
B「もっと駄目じゃねぇか。昨日も来たくせになんで迷うんだよ」
A「いや、いつもと違う競馬場に行ったら帰り道がわからなくなってな」
B「…なんかもういいや。で、今回はいくら欲しいの」
A「えっとねー、二万五万円。あれ?」
B「またか」
A「うるせえなあ」
B「お前、そんなんでよく今まで生活してこれたな」
A「足し算と引き算くらいは出来るんだよ」
B「まっったく説得力ない」
 B、財布を取り出して中を見る
B「えーっと…とりあえず五万でいいか?」
A「あざーっす」
 A、受け取ろうと手を出す
B「待てよ、まだやるとは言ってないぞ」
A「え?」
B「何で欲しいのか、理由を言えよ。ただし」
A「ただし?」
B「こないだみたいに、どう考えても嘘っぽいことを言われても貸さないからな」
A「こないだ?」
B「やれ埋蔵金だの大学だの……あとから考えてみりゃ、あれほどお前らしくない理由もないぞ。お前は自ら汗水たらさない奴だ」
A「そんなオカマみたいなことできねえよ」
B「だからなんなんだよその発想。で?」
A「あぁ、実はいろんなとこから借りてた借金が雪だるま式に膨らんでて、いつの間にか闇金まで手出しちゃったから、今払わないとマグロ漁船に乗せられちゃうんだ」
B「よくもまぁいけしゃあしゃあとすぐに嘘が出てくるな!?」
A「駄目か」
B「駄目に決まってるだろ!お前はどっかそういうとこに借りるリスクを犯すくらいなら普通に友達に借りに来るタイプだ。今だってそうだろ」
A「そうかー俺っぽいと思ったんだけどなぁ」
B「お前にとってお前はどう見えてるんだ」
A「じゃあ」
B「『じゃあ』って!」
A「実は俺、こう見えて病気持っててさー、治療費が意外とかかってんの。でさ、ついこないだ、すっげー治療法が見つかったとかで、それ受ければ完治するんだけど、すっげー金かかんのね。貸して」
B「もっとバレバレの嘘つくなよ」
A「嘘じゃねぇよ。癌なんだよ、俺」
B「どこの」
A「盲腸」
B「ありえねーよ」
A「なんで」
B「お前盲腸やってんじゃねえか」
A「あれ、知ってたっけ?」
B「知ってるよ!何年付き合ってると思ってんだ!」
A「それもそうだな……わかったよ。かっこわりーから言いたくなかったんだけどなー…」
 A、真剣な顔
B「…なんだ?」
A「…実はさ、ちょっとまずい女に引っかかっちゃって」
B「…最初っから嘘っぽいけどとりあえず聞いてやる」
A「最初はさ、ただのカフェの店員と客だったんだよ。それがさ、なに、そういう関係?になってから…その子がどっかの組の娘だって、わかっちゃったんだよ。なんか、猫被ってたらしくて、性格もだいぶ違うの」
B「ほー」
A「ってなると、お前ならわかってくれると思うんだけど、やっぱそういうのと関わるのめんどくさいじゃん」
B「まあ、お前はそういう性格だよな」
A「だろ? で、手を切ろうとしたんだけど…どういうわけか親父さんにバレちゃってさー。逃げるにしても話を付けるにしても、どっちにしろ金がいるような事態になっちゃったんだよ」
B「本当だったらまじでやばいぞ、それは」
A「本当なんだってば! だからお前に頼ってんじゃねーかよー」
B「まあ間違いなく嘘だと思うけどな…つーかそんな大事だったら金より手を貸すわ」
A「あ、手はいいんだ。あてがあるから」
B「お前にあてがあるようには思えないけど」
A「だからさ、金貸してくれよ。あ、いっそのこと高跳び用の足用意してくれてもいいし。あれ意外と金かかるんだよな」
B「例えば?」
A「高跳び用の飛行機とか…無理なら車でも。あ、迷惑はかけたくないから手続きはこっちでやるけど」
B「…え、まじなの?」
A「だからそう言ってんじゃねーか!やっと信じてくれた?まじでやばいんだって!」
 B、やっと真剣な表情
B「…ちょっと考えさせてくれ」
A「あぁ、いくらなんでも今すぐ決めてくれとは言わない。でも出来れば今日中には結論出してくれないか」
B「…嫁に相談してきていいか?」
A「どうぞどうぞ」
 B、部屋を出て行く
 A、困った表情をしたまま何かを探す動き
 ふと気づいてBの椅子の後ろを見る
 財布を発見して嬉々とした表情で中を覗く
 金を抜いて部屋からでるところでBが帰ってくる
B「…あ!」
A「借りてくなー」
B「ちちょっと待て!」
 足を止めるA
A「何?」
B「待つのか!じゃなくて結局何に使うの?手切れ金?」
 首を横に振るA
B「借金?」
 首を横に振るA
B「……麻雀?」
 A、出て行く
B「あっ」
 B、座ろうとしながら
B「これはもはや泥棒じゃねえの? ったく、きっちり五万だけネコババしていきやがって……!(立ち上がる)手ってまさかこれかあ!?」

 C・O
作品名: 作家名:泡沫 煙