二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

素懐

INDEX|1ページ/1ページ|

 
濡れたものを右腕に感じて目を開けると、投げ出した右手の先で玲治がネコのように四つん這いになって、俺の腕を舐めていた。
俺の視線に気付くと彼は僅かに顔を上げて赤い目を細めた。
そして、視線をつなげたまま口を開き、上下4本の鋭い犬歯の間から尖った赤い舌を出して腕を舐める。
扇情的な光景に腰のあたりにジンっと鈍い感触が走り、気付かず奥歯を噛み締めた。
それにしても・・・一体何のつもりなのだろうか。
二の腕を丹念に舐める玲治。
筋の一つ一つ、浮き出た血管の一本一本、肉付き、骨の形をなぞるように舐める。
執拗な舐め方は色気よりも切実なものを感じて、訝しむ。
そう、それは注射を刺す前の消毒に似ている。
そしてふと浮かんだ言葉は『味見』。
咄嗟に腕を引いたのと、玲治が顎を閉じたのはほぼ同時だった。
途端、カツンっと歯を合わせる音がして、玲治が赤い目で俺を睨んだ。
こいつ・・・俺を食おうとしやがった。
「・・・油断も隙もねぇな」
「・・・あんたも、意外にするどい」
伏せていた半身を起こして玲治。
大口を開けてあくびをすると、ぺろりと己の口の周りを舐めた。
もう、俺の腕には興味はうせたらしい。
すぐに乾いた腕はひんやりと冷たくなっている。
それをさらりと左手で撫でて、無造作に上げていた袖を下ろす。
玲治はつまらなそうにその様子を見て、首をまわしてコキリと骨を鳴らした。
「・・・お前に食人の趣味があるとは思わなかったな」
「あぁ、うん。そうね」
「そうね・・・じゃねぇだろう。人の味見しやがって」
舌打ちと共に言えば、玲治が腹を抱えて笑う。
「味見か。うん。確かにさっきのはそうだよな」
はははっと爽やかに笑って見せるが、彼の口はポッカリとあいた闇のようだし、赤い目は血の海を思わせる。
「で・・・お前は俺が腕を引かなかったら本当に食らうつもりだったのか?」
「まぁね」
目をキラリと輝かせる。
「だって、美味そうだったし」
言う、玲治の口の中には唾がいっぱいたまっているようだった。
「・・・ますます悪魔だな」
「悪魔だよ。俺」
少し前なら嫌味になった言葉が、今では何の意味もなさない。
悪魔であることに迷いを失くした彼は、強くて強くて・・・しかし、どこか脆く見える。
「腹・・・減ったのか?」
言葉を選びかねてそんなことを聞いて見る。
玲治はぺたんこの腹に手を当てて、首を傾げる。
「別に?ここ数ヶ月は腹なんて減らないよ」
「便利な身体だな」
「戦えば、マガツヒが手にはいるからね。」
すすんで差し出すやつもいるし、腹は減らないという。
確かに・・・それはそうだろう。
彼は誰にも容赦しない。矮小で取るに足らない悪魔にも、雌型の悪魔も、逃げようと背を向ける悪魔にも。
持つものは全て剥ぎ取って、最後には命すら吸い尽くす。
悪魔よりも悪魔らしい、人修羅に恥じぬ畜生の姿だ。
極悪非道を絵に描いたような姿に最初は胸焼けを感じていた俺だったが、近頃では諦めが先立つ。
「あんたは不便だよな。時々ニュクスママのところにかよってるんだろう?」
「あぁ」
ニュクスママとは、銀座でバーを開いている雌型の悪魔のことだ。
そこにいけば出所は不明だが美味い飯を出してくれる。いくら半魔の身といっても、俺は何も食わずにはいられない。玲治のようにマガツヒを糧にする術はしらないのだ。
「それより・・・腹がへっていないなら、わざわざ俺を味見するのはやめてほしいな」
「えー」
「えーじゃねぇだろう・・・。全く」
油断も隙も・・・ともう一度言いかけると、彼はクスリと笑った。
「だってさ、こないだあんたが傷を負ったときの血の臭いがやけに鼻について離れないんだ」
優しいとも言えるような微笑み。
しかし、それは人の心を真底冷えさせることにしか働かない。
「甘いよね。あんたの血の臭いって。他の悪魔のそれとは違うみたいだ。もちろん、マネカタなんかともね」
そういいながら、物欲しそうな目を俺の腕に向ける。
「欲しいか?」
聞けば、当然のように頷きやがる。
それにムッとして・・・それなら本当にくれてやろうかと思う。上腕に血止めの紐をきつく巻いて、肘のあたりから断ち切って玲治に放ってやろうか。それでヤツが満足するなら腕の一本くらい安いもんだと思っていると、
「自棄を起こすなよ」
見透かしたように玲治が声を上げ苦笑する。
「何?」
聞き返すと、
「俺は、好物は最後に食うことにしているんだ。それに、あんたは俺の性癖はよく知っているだろう?」
「性癖?」
「そう、俺は与えられるより奪う方がすきなんだよね」
真っ赤な唇から真っ赤な舌を覗かせた。
「そんなに簡単にいくと思うか?」
「さぁ?それはあんた次第だね。それに俺の希望としてはせいぜい抵抗してほしいな」
まぁがんばってよ。っと俺の右手をぽんと軽く叩いた。
作品名:素懐 作家名:あみれもん