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ドラスチック

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酸素を凍らせると青みの氷ができるそうだ。
だとしたら、彼の瞳は、きっと孤独を凍らせてできているのだろう。

理性と聡明で形成された顔は、ひどく無機質だ。
冷徹・・・その言葉が最初に浮かんだ。
そしてそれは間違いではなかった。

彼は常に私に孤独を与える。
孤独の辛さを知っている私がそれに怯えることを知っているから。
一人でいる部屋には何も無い。
ソファとベット、机、白い天井、白い床、白い壁。
それが全て。
時間すらわからない場所で毎日を過ごす。
日に三度運ばれる食事で、何とか時間が流れているのが分かる程度。
食事を運んでくるのはいつもあの男。
いや、彼以外に、ここに入ってくる人はいない。

ノックに返事をすると、無表情な彼は静かに入って、テーブルに食事を置く。
「食事だ」
それだけを言い、返事も待たず、前の分の食器を持って身体を翻す。
一度、彼が背を向けると、扉を背中でしめるので、次に食事を持ってくるまで彼の顔はみれない。
話すらしてくれない。
孤独は嫌いだ。
孤独を知っているから。
藁にもすがる思いで、彼を見つめてしまう。
きっとこれは罠なのだろうと思う。
それともゲームだろうか?
一方的に仕掛けられたゲーム。
了承も得ぬままに。
ルールは簡単。
私が、彼にすがれば負け。
すがらなければ・・・いつまでも続くゲーム。
負けは見えている。
孤独は恐ろしい。
心を蝕む。
一番すがってはいけない相手だとわかっていても、捨てられた子犬さながらに、私は彼をみつめてしまう。
そして、それを分かっていて彼は眼をあわせることはしない。
陶器のように白く、感情を表さない顔、エメラルドの海を覗き込むかのような瞳。

拳を握り締めて、伸ばそうとする手を押さえる。
行かないで、こぼれそうになる言葉を唇を噛んで耐える。
折れそうな心を必死に支えた。
いつしか、おぼろげになってきた仲間たちに嘆いた。

必死に築いた防護壁。
なのに、ノックが擦るたびにそれにヒビがはいり、細かく砕けていくのが分かった。
震える心が、唇が、体が、目が・・・
誰かそばにいてと叫んでいる。
迷子になった子供のように、孤独感が襲う。

ゆっくりと開く扉、音もなく部屋に踏み入れる姿。

目がそれを追うことを、私は止めることなどできない。

食事をカタリと置く姿を必死に見ていると、いつもは決して目を合わせない男がこちらを見た。

メノウのような深い碧に自分が映っているのを見た。

瞬間、防壁が、崩れ落ちる音を確かに私は聞いた。

絶望と、幸福に堕ちる私を見て、氷のような無表情で、男が笑ったような気がした。
作品名:ドラスチック 作家名:あみれもん