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Led Recover

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「いつまでそうやってへこんでいる気だね」
雨の中静かに叱咤する声。
その言葉にどんな意味が隠されているのかは分からない。

ただ、彼は雨に消えかかる焔を再び燃え上がらせようとした。





大通りの時計台のもとにエドワードとアルフォンスは滴る雫も省みず座り込んでいた。
錬金術。人体錬成。法則を逆流する愚かさ。そして、己の未熟さ。
次々と浮んでは消える憂い。
うつむいてただ黙々と考え込む。
「……兄さん」
「……ああ」
代償を払い、己の浅はかさを知り。
流れに逆らう事の罪深さを誰よりも分かったつもりでいた。

とんだ思い上がりだ。

思い知った筈なのにまだ逆らおうとする。
思い知ったつもりになっていただけだったのか。
自己嫌悪に心が闇に包まれる。
ぽつぽつと優しく降る小雨までもが自分を責め立てているような気がして
エドワードは腕を抱えますます肩をすくませた。

『これしきの事で立ち止まっている暇があるのか』

うるさいよ。
先刻の上司の言葉に毒づいてみる。
そんな事、言われなくたって分かってんだよ。



今は、かみつく相手が彼しかいなかった。



考えてみれば
理由はどうであれ、国家錬金術師の道へ導いたのは彼であり。

3年前のリゼンブール―――身体を失い全てに絶望するちっぽけな兄弟に
『このまま絶望と共に一生を終えるか!』
言葉強く再起を促し
『元に戻る可能性を求めて、軍に頭を垂れるか!』
包み込む暗闇にこのまま埋もれてしまう気か、と

『たとえそれが泥の河であったとしても』

その言葉が火種となる。
真っ暗な闇の中でボウッ、と赤い焔が点いた。
それは小さくも煌々と輝き、目の前の道をはっきりと照らし出した。

オレは全てを取り戻す。過ちは受け入れ更に呑み込み糧にすらしてやる。
オレは全てを取り戻す。その為なら利己的に軍を利用する事も辞さない。

オレはまだ負けてなんかいない。
無いものは補う。補ったそれすら有益に利用する。
そして、奪われたものは取り返す。

足も 腕も 弟も

全て取り戻す!!



小さな赤は爆発的に燃え上がり、暗闇を一瞬で消し飛ばした。





――何故ロイ・マスタングはあの時火種を放ったのか。
エドワードは解っていた。勧誘と利用、ただそれだけだ。
しかし結果としてエルリック兄弟は奮起しこうして目的へと着実に進んでいる。
彼等に才能を見出したとはいえ、何故そこまでしてやるのか。

2度目に会った時彼は既に大佐へと昇進していた。

まるで戦友に遅れをとるな、とでも言うように。



『これしきの事で立ち止まっている暇があるのか』
彼の叱咤が暗闇に入りこむ。
――そんな弱い心で事が成せるとでも思っているのか。

誰が弱いって。

――君達がへこんでいる間にも私は先へ行くぞ。

先に行くのは俺達だ。

大いなる野望を秘めた焔は雨に消えかかったちっぽけな焔に飛び火し
またも、とてつもない赤を甦らせた。



雨の中静かに叱咤する声。
その言葉にどんな意味が隠されているのかは分からない。

ただ、彼は雨に消えかかる焔を再び燃え上がらせようとした。
作品名:Led Recover 作家名:須賀