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【リリなの】Nameless Ghost

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 ユーノは今のフェイトではあの剣士には勝てないと何となく理解が出来た。彼女の様子、その振る舞いや物腰から歴戦の勇士を感じる。確かにフェイトは才能のある魔導師だが、それでもあの剣士に比べれば圧倒的に戦闘の経験が足りていない。もしも、彼女の経験に勝る人物が居るとすればそれはアリシアだけだと言うことも理解できた。
 つまり、今は勝ことではなく負けないことを考えなければならない状況なのだ。
 それに、とユーノは呟いた。

「なのはを痛めつけてくれた恨みもあるから。僕はあの子を絶対に許さない」

 血がにじみ出るほど拳を握りしめるユーノの様子にフェイトは少し背筋が寒くなった。こんなユーノは知らない。ユーノといえばいつも穏やかに笑って、博識な知識で自分たちに様々なことを教えてくれる優しい少年だ。
 今彼の瞳に浮かんでいるような激情と憤り、そして怒りを身に纏う少年ではない。
 それは、自分にとって特別な少女を傷つけられた事への怒りか。それとも守ると誓いながら守ることが出来なかった自分への怒りか。兎も角、フェイトとアルフは確信した。ユーノは今、傍目では冷静に見えているだけでその心の内では鉄をも溶かしてしまうほどの激しさで怒っているのだと。

「ユーノ。少し冷静になって。許さないとか恨みとかじゃあの子は倒せない」

 フェイトは無駄と分かりつつもそう助言する。ユーノは、ゆっくりと笑みを浮かべ肯いた。

「分かってる。大丈夫、僕は冷静だよ。なんだかね、許せなくて怒って、今は逆に冷静になれてるって感じなんだ。感情が高ぶりすぎると逆に冷静になっちゃうなんて初めて知ったよ」

 それでも、とユーノは思った。こんな状況でもアリシアは変わらないのだろう。
 今の自分は確かに冷静だ。冷静に怒っている。ただ感情がそれに追いついていないだけで怒りが心を凍てつかせているのが分かる。
 しかし、アリシアは違うだろう。彼女は怒りながらも理性的に物事を処理する。感情と理性を完全に分立させ、必要あれば思考の中から感情のアクセスを遮断する。
 そんなことが出来るアリシアは狂っていると思う。感情のままに狂うのは二流だというアリシアの言葉に従えば、理性を持ったまま狂っているという彼女自身は正に特級の狂人なのではないか。

「じゃあ、行こう。ユーノ、無事でいてね」

 フェイトはそう言い残し、アルフを従え一直線に目標へと飛び去っていった。

「速いねフェイト。僕は遅いし、なのはみたいな強い魔法が使えるわけでもない。フェイトみたいに直接戦う手段も持っていない。クロノみたいにあらゆる戦場を駆け巡れるわけでもないんだ」

 そして、ユーノは見上げた。自分自身が戦うべき相手を見据え、その少女も自分が現れたときからその瞳にはこちらを敵とする殺気がこもっているように思えた。

「だけど、それでも戦わなくちゃいけないんだ」

 守りたい、彼女を。他の誰でもない、彼女だけを守りたい。ユーノは握りしめた拳をほどき、そして「ふう」と一息置いて唐突に大空へと舞い上がった。
 天翔る盾――大空のイージスを背負う少年はそうして守護者となった。

「…………グラーフ・アイゼン、ラケーテン・フォームに形状変化」

 漸くお出ましかとヴィータは少年の到着に組んでいた腕をほどき、グラーフ・アイゼンをなのはを打ちのめした推進衝角形状にモードをシフトさせる。
 それは、実に冷静な判断だとユーノは判断した。
 ヴィータは、ユーノが出現した瞬間、自分の攻撃があっけなくはじき返されたことを経験し、そして理解した。
 この手合いはものすごく堅牢だと。
 確かにあのときは最後のとどめを刺すため幾分か力を抜いて、さらにラケーテン・フォームから通常形態に形状を戻していたこともある。しかし、あの瞬間。殆ど出現と同時に展開されたあの盾は、まるで城壁を手槌で叩いたかのような感触に襲われたのだ。
 あの壁と称しても良いほどの盾は、自分の持つ切り札の中でもっとも突破能力の高いこの形態でなければならないと判断した。そしてもう一つ。たとえ初見で油断していたときだといえ、鉄槌の騎士を名乗り「我が槌に貫けぬもの無し」と自負する自分の攻撃がああもたやすく弾かれてしまったのだ。

「シグナムとザフィーラに他の用事があって運が良かったかもな……」

 不謹慎かもしれないが、ヴィータはこの時自らに課せられた使命を忘れていた。それこそ、さっきまで後ろ腰に結びつけていた命ともいえる闇の書がいつの間にかなくなっていたことを忘れてしまうほど、ヴィータの闘争心は臨界まで高まっていた。

「行くぞ、盾(イージス)。守って見せろ、お前の大切なものとやらをなぁ!!!」

 ヴィータを前にしても無言を貫く手合いに、ヴィータはそう一喝してラケーテンの推進剤を爆発させ自らの考え得る最高速と最大遠心力を持ってユーノに襲いかかった。

「ラケーテン・ハンマー!!」

 恐ろしいまでの運動エネルギーをまとい襲いかかる研ぎ澄まされた衝角を前にユーノは静かに両の手の平を掲げた。

(私の呼び声に答えよ。私の声は言葉に、私の言葉は祈りに、私の祈りは願いに、私の願いは力に。私の力は妙なる響きとなり、響きに導かれし光は私の意志に従う)

 声は言葉に、言葉は祈りに、祈りは願いに、願いは力を導き出す。ユーノの正面に掲げられた手の平の前方に光の円陣が出現し、それは複雑な術式と文字を刻み込みながら高速に回転を始める。

(こいつ、速い!!)

 ヴィータはその術式の構成速度とあまりにも緻密な式密度に一瞬驚愕するが、その手は一切緩めず構築された盾に衝角をぶち当てた。

「Round Shield」

 デバイスではない人の声。はつらつとした少年の声は今は低く響き渡り、その光壁は再び襲い来る暴力に立ちふさがりその侵略を防ぐ。

「やっぱり、堅い………だけど、あたしは……負けてられないんだよ!! こんな程度の障害に阻まれてる訳にはいかないんだよ!!」

 ヴィータは歯を食いしばり、そして唸った。

「アイゼン、|カートリッジロード《弾丸装填》。|フルパワー《最大出力》! |ブレイズ・バースト《激発》!!」

 シールドに食いかかり、僅かにその軸をぶらしながらも爆音を立てる大槌は担い手の願いを聞き入れ自らの崩壊さえも覚悟してフレームをスライドさせ、カートリッジを激発させた。

「|フォース・ワークス《上出来だ》。貫けぇぇーーー!!!」

 爆轟の響きと共にインパクトの輝きが世界を包み込みノイズまみれの空間が二人の姿を覆い隠した。