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【リリなの】Nameless Ghost

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従章 第六話 騎士



 海鳴市住宅街、閑静な住宅街と言うには憚れるが夜になってもそれほど騒音が気になるほどではない。街の中心部からは多少離れ、近場のコンビニにも歩いて20分ほどかかる立地条件ではあるが、静かな夜を過ごしたい人々にとっては理想的な環境とも言えるだろう。
 その住宅街の中央付近に位置する一戸建てに帰宅したヴィータは、風呂上がりの火照る身体を冬の冷風でさましながら湯にぬれた赤髪をタオルでぬぐっていた。

「風呂あがったよ。シグナムは?」

 Tシャツに短パンとラフな格好をして冷蔵庫を漁るヴィータは、窓の近くのソファに腰を下ろして静かにたたずむシグナムに声をかけた。

「私はいい。明日の朝にでも入らせて貰う」

 シグナムは夕刊を折りたたみながら振り向かずそう答えた。
 ザフィーラはシグナムのその言葉に耳をピクンとさせるが、我関せずと床にうずくまる。

「お風呂好きなのに、珍しいわね」

 エプロンを脱ぎながらリビングに顔を見せたシャマルはそれを入り口近くのハンガーに掛け、そろそろ休ませて貰うと言って部屋に戻った。

「じゃあ、あたしも寝るよ。お休み」

 風呂上がりのフルーツ牛乳を飲み干し、流しに放り込んで、ヴィータは自分の寝室、彼らが主と仰ぐ少女の寝室へと向かっていった。
 バタンという二つの音がリビングに響き、そして静けさが戻った。

「先の戦闘か。負傷でも?」

 ザフィーラは軽く面を上げ、ソファにそのままの状態でたたずむシグナムにそっと声をかけた。

「相変わらずの慧眼だ、ザフィーラ」

 シグナムはそういって両の袖を捲り、数カ所に渡って走る裂傷や痣を彼に見せた。

「お前に負傷を負わせるとは。いや、むしろその程度で済んだと言うべきか」

「完敗だ。完全に手の平の上で踊らされた」

 相手は単体では圧倒的に劣る戦力だった。たとえこちらが二で相手が三であってもその戦力差は揺るがなかったはずだ。しかし、彼らを統率していたものがいる。それは劣る戦力を策謀によってまとめ上げ、こちらを敗北に押しやった。
 確かに、シャマルは第一目標となった敵司令官を蒐集し戦闘不能に陥らせた。しかし、結局蒐集できた頁は僅か一頁の半分にも満たない量だった。
 あれだけの戦闘を繰り広げ、相当数のカートリッジを消費して得られた頁は僅か半ページ以下。

「いったいどのような将だったのか。一度会ってみたくもある。それに、私の相手をしていたあの金の少女。武器をあわせたのは数度に過ぎなかったが、済んだ太刀筋をしていた。よい師に学んだのだろう。武器の差がなければ良い戦いになっていたかもしれんな」

 シグナムはそういって、窓の外に浮かぶ星空を見上げた。街の光で酷く濁る夜空には目を見張るほどの星々の瞬きはない。
 しかし、それはどこかシグナムにとって心に落ち着きをもたらすようなものに思えた。