墓穴を掘る
先週は鳩、四日前は猫、今日はどこで見つけてきたのかモグラを持ってきていた。
あいつが言うには、無意識に引き付けられるのだと言う。
わざわざ探すまでも無い。登校中、帰宅中、部活の最中だって、ふと顔を向けた先に「ある」のだそうだ。
そしてソレを部室にまで持ってくる。もう家には場所が無いから。って。なんだそりゃ。
まあ部室にあっても仕方ないし、暫く放置すると異臭もするので皆で埋める。
武羅渡が恭しくグラウンドの隅に死体を運んで、八墓が穴を掘って、幽谷が穴に死体を置いて、月村さんがその上に土を被せて埋める。半月前に見つけてきた鹿とか、モノが大きい時は幽谷が入れる前に鉈が解体する作業が入る事もある。黒上が何処の国の言葉かも分からない呪文を呟く横で俺は自分の心霊体験を思い返しながら滞りなく行われる埋葬作業をただ見ている。
月村さんが完全に墓穴を埋め終わった事を確認する「よし」という言葉を合図に俺達はグラウンドに帰り、健全なサッカー少年へと戻る。
「なあ」
「はい?なんですか」
「火葬じゃあ、駄目なのか」
「かそう」
初めて聞いた単語のように、幽谷は鸚鵡返しにその単語を呟く。
先を歩いていた八墓がその言葉に反応し振り返る。
「三途」
「なあ、面倒だろ。いちいち掘って、埋めるの」
「火葬は多分……消えるのが早いから駄目なんです」
窘めるような口調で再度名前を呼ぶ八墓を無視して幽谷に話を続けるのを促す。
怖いんだ。あんなに墓だらけの場所。生と死の境界が曖昧になる。意識しないようにすることが更にそれを加速させて背筋がざわつく。否が応にもそうなってしまう。
俺としては明確な理由も無しにこれ以上周りに墓を増やされちゃあたまらない。
眉を顰める八墓に幽谷は曖昧な笑顔を向けて、俺に言われるがまま言葉を繋げた。
「土に埋めて、ゆっくりと還っていく身体を眺めながら、自分が死んだ事をちゃんと理解させるようにしないといけないんですよ」
何のことだ?
言葉が見つからなくて黙る俺に、大事なことを伝えるように改まって幽谷は身体を後ろの墓場に向ける。
「昔……一度だけ火葬、やってみたんですが、やっぱり駄目だったみたいなので」
そう呟いて幽谷はバンダナの一つ目に触れる。
瞳の輪郭をなぞる指先に黒い靄が一瞬滲んで消えた。
「だから、土葬でなければいけないんですよ」
描かれた目がぱちりぱちりと瞬きをする。
「だから言ったんだ」
八墓が呆れたようにそう言って、放心する俺を置いてグラウンドへさっさと歩いて行く。
なんだよ畜生。お前は俺の名前しか口にして無いだろ。なにがだから、だ。
俺はもう何も見なかったことにして、それでもぱちぱちと瞬きを続ける幽谷の手を取り八墓を追った。
「次からは墓掘り手伝う。それでいいんだろ、キャプテン」
「けんめいです」
賢明なのか懸命なのか、幽谷がどちらを意図して言ったのかは分からないが、とにかく幽谷の頬に浮かんだ笑窪が可愛かったからもうそれでいいやと思ってしまった。
墓の穴に埋められる前の三途渡14歳の夏。