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あと20せんち(煙草が邪魔だよ!)

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平和島静雄は、なにも気にする風もなく、それはもう無防備に寝ていた。
細い金髪をシーツの上にまばらに散らして、ゆっくりと寝息をたてている素振りなので、近付いても起きないだろうと高をくくって顔を近付けようとすれば、眼をぱちりと開けて起きてしまった。
しかし、まだ薄暗いので目の前の侵入者が誰だかわからないのか寝起き特有のドスの効いた「誰だ?」と問いかけられたので無視していれば、ペールブルーのサングラスをかけてから、照明を付けたシズちゃんは、やっと俺を視界に入れたのか睨みつけてきた。
「ねぇ、ねぇ。シズちゃん。……っごほ、なにするのさ」
話掛ければ夢なんかじゃなくて本当だと悟ったのか、細くて長い腕は俺の顎と首もとの間を狙ったように伸ばされて、顔をこれ以上近付けないように処置をされてしまった。
シズちゃんは朝が弱い、と聞いていたので起きたとしても暫くは動きがにぶいかと思ったので予想外である。寧ろ、サングラスを取り上げておけばよかった、と後悔したもののもう後の祭りであった。
「っせぇ。というか、なにしてやがる。それに手前に鍵なんざやった筈はないのに、なんで部屋ン中いるんだよ」
「ほら、ピッキングって奴で開けただけだよ。シズちゃんは馬鹿だから、わからないかもしれな……痛ぁ」
からから笑ってやれば、シズちゃんの腕の力は強まってのか、顎の骨がぎしぎしと悲鳴をあげた。それでも昼間とは比べ物に成らない位に力が弱かった、やっぱり朝は弱いらしい。
それを誤魔化す為にか、煙草を口にくわえてから慣れた手つきで火を点けて、吸いはじめたシズちゃんは段々と眼が据わりはじめていた。どうやら煙草で目を覚ます質らしい。
「……また、大家に言って鍵を変えなきゃならねぇじゃねぇか。で、なにしてんだ臨也」
とは言っても、話せる程には起きているものの完全に目が覚めている訳じゃないようで、起き上がったり叫んだりしない分、いつもより可愛く感じた。
「なに、って寝起きを襲う為……っげほ、ごほっ!」
「あ? 俺を背が低い手前が、俺を襲うだなんて冗談を言う暇が合ったら出て行けよ」
煙草の煙を顔に思い切り吹きかけられて思わず咳き込んだ。
「副流煙は主流煙の三倍害が強いんだよ、シズちゃ……ごほっ、人が言うのを妨害しな……あぁ、眼に煙がしみるし」
こちらの声を聞きたくないというように、眼を細められたらものだから、煙草を奪ってしまおうと手を伸ばしたが届かなかった。
「……手前の肺なんざ知るか。とっととタールで真っ黒になっちまえ」
「酷いなぁ……それって愛の裏返し?」
「ほざけ」
気に食わないと言わんばかりに言葉を吐き捨てるシズちゃんを眺めれば、こちらを観察するように薄い蒼をしたサングラス越しに見られていた。いつも炎のような怒りに彩られた瞳とは違いどこか静的な、名前に相応しい色合いの瞳をしていた。
「ところで、その手はなんなのさ? もしかして俺にキスしたいとか思って……げっほ! だから俺に煙草の煙をだねぇ……!」
その台詞がお気に召さなかったようで、口から大量の煙を吐き出して話す事を妨害された。
「なんで手前なんかと、そんな事しなくちゃならねぇんだ。……ただ、どう手前を殺そうか考えていただけだ」
腕に力を込められたのかいやな音がした。顎の骨どっか痛めたかもしれないなぁ、と新羅に治して貰う羽目になるのかと思うだけでげんなりとした。
どっちにしろ医者の世話になるのなら怪我をしても構わないのだから、殆ど自殺のように開いている右手を伸ばして彼から煙草を取り上げて、片時も離さずに持ち歩いているナイフの刃に押し付けて消火してやった。
「……臨也っ!」
シズちゃんが煙草を取られるのを阻止しようと俺の顎から手をどかして押さえに掛かろうとしていたのだが、未遂に終わり何が起きたのか分かっていないように呆然とした、無防備なシズちゃん対して、顎を押さえていた邪魔な腕も無くなったのをいい事に眼が覚めそうなまでに激しい、噛みつくようなキスをしてやった。