嗚呼、幸せな人!
それは、酷く浅ましく、幼い恋でした。
今から、懺悔を致します。
これは俺の唯一の愛で、後悔で、浅ましい、恋の話です。
事の始まりはちょうど十年前、
小柄でひ弱だが心優しい少年が、鳥の名を持つ美しい少年に恋をしました。
(雲雀、という名の人でした)
(彼はまるで鳥の様に自由奔放で、傍若無人で気まぐれで、そうして黒猫の様につんとしていた人で)
(そんな生き様がとても似合う人なのでした)
ある時は学校の廊下、またある時は窓ガラス越し、またある時には商店街の肉屋の前で。
声を掛ける訳にもいかず、俺はただ去り行くあの人の影を見送るばかりでした。
その目に俺だけを映してくれればいいのに。嗚呼、苛々苛々。
胸を焼き、じわじわ焦がしていく。
これは独占欲でした。
嗚呼、哀れ。何故お前如きにあの人が捕まえられるのか!
幻聴が、聞こえる様な気がしました。
(毎日毎日、そんな思いだったのです)
あの人は、誰よりもあの町を愛していて。
あの人は、町と共に生きていました。
(あの人は、あの心地よい空間をこよなく愛していたのです)
(そうして、俺は、そんなあの人を愛していました)
(嗚呼、惨めな三角関係)
しなやかで、まるで影の様で、意識しなくても存在を知らしめる事の出来る人。
(俺の知る中の最強の強者。幾万の弱者の屍の上に立っても、貴方はまたつまらなそうな顔をするのでしょうね)
嗚呼、何て愛しい、
俺の美しい人!
「雲雀さん」
話を戻しましょう。あの恋の話からちょうど十年後。
俺の隣には、あの人がいます。
いえ、いてくれるのです。
凛とした顔はとても美しい。
けれどにこりと笑う姿はもっと美しい、と思うのです。
あ、
「何、綱吉?」
にこり。
優しい眼差しが俺に向けられる。
その美しい目に映るのはきっと俺だけ。
歪んだ優越感が、ちらりと顔を覗かせる。
それと悟られぬ様に、明るく振舞いながら。
俺は、満足感に溢れた顔を隠しきれぬまま高らかに言い放ちました。
「俺ね、今とっても幸せなんですよ!」
嗚呼、幸せな人!
(宙に舞う、美しく気まぐれな鳥さえ捕まえて見せる事の出来る空の人。)