事実の見方
「すごいのね」
ロビンの声に、作業に没頭していたフランキーは顔を上げた。
それを見計らったようにカシャッと音が鳴る。
「フフッ、いい画が撮れたわ」
嬉しそうな声と共にカメラの向こうからロビンの顔が覗いた。
「なんだテメェ…こんなの撮って楽しいか?」
「ええ。キリンの絵と貴方の呆けた顔が綺麗に収まったと思うわ」
「キリンの絵じゃねぇ!からくり玩具の設計図だ!」
揶愉されてフランキーは怒ったが、ロビンはクスクス笑うばかりだ。
「…カメラなんか持ち出してどうしたんだ」
再び設計図に線を書き加えながらフランキーは尋ねた。
「部屋の中を整理していたら出てきたの。せっかくだから、久しぶりに撮ろうかと思って」
そう言って、ロビンはそのまま居座ることを決めたらしく座り込んだ。
「――…写真ってすごいわね」
「んぁ?」
静かな呟きにフランキーはおかしな声を上げた。
「『確かにあった瞬間』をそのまま捉えるでしょう。とてもすごいことだと思うわ」
「まぁ、それが役目だからな」
キリンの模様が気にくわなかったフランキーは大幅に消しゴムを使う。
「……人の目は光景を二次元に映すけれど、写真もそうよね」
「ああ」
「でも、それなのにどうして違うのかしら。同じ光景を見ているはずなのに、どうして違うような気がするのかしら」
先程までの楽しげな雰囲気とは打って変わって、ロビンの声は平坦だった。
「…そりゃ、人の見るものには『流れ』があるからだろ。時間経過とか五感で感じとるものが。その違いだろ」
こともなげに言い切る。
「そうね……」
フランキーはロビンを見た。
沈んだような声だったが、意外と表情は穏やかだった。
「いつも、歴史書を読んでて思うの。世には数え切れないほどの伝承や事実が本になっている。遺跡は写真で載っているし血生臭い争いの絵だって残っている。後世の為にこれらは記録されているわ」
「……」
「でも、それを見て、どれだけその事実を知ることができてるのかしら」
「……どういう意味だ?」
消しゴムを使ったせいで、大事なラインまで消えてしまった。ふっと息を吹きかけて消しカスを飛ばす。
「…例え事実とされている本でも本当は違うかもしれない。偉人が話したことを一字一句間違わずに記録していたとしても、その時の『流れ』次第では、違う意味で捉えられることもあるんじゃないかって…」
「……そこを割り切るのも考古学者の役目じゃないのか」
「……」
それ以上ロビンは言葉を続けなかった。
ロビンはわかっているのだ。
「――フランキー!キリンまだかー!?」
チョッパーが待ち切れないように顔を紅潮させてやって来た。
フランキーの描きかけの設計図を見て目をキラキラさせている。
――ロビンはそれを見て笑みをこぼし、再びカメラを構えた。
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