それは午後の何気ない戯れでした。
「世界が、」
認めてくれるか、認めてくれないか、何てそんなこと。
大した問題じゃ無いでしょう?
だって世界なんてガラス瓶の底に映った空みたいに曖昧な物。
そんな不安定な物に頼りたい、何て
(嗚呼、全く愚かだと思いました。)
そう言って彼の口元は今度は緩やかな弧を描く。
ぼんやりぼんやりと虚ろになる目を瞬いて、
今度は穏やかに笑って見せる彼をじっと見つめてみた。
そこでリボーンはふと、些細な疑念に駆られる。
(純粋なる狂喜持った人間はこんなに穏やかで居られるものなのか?)
(否、純粋すぎるが故、なのかも知れないが)
どちらにしても、彼の本心を悟ろうとしない限り、真相は闇の中!
(そうしてたった今解決した小さな疑念のささやかな回答はそっと心の中に仕舞いこんで置く事にしようか)
「時々ね、こんな風にしている事さえ全て白昼夢であって欲しいと思うことがあるんだよ」
平凡で面白みが無いけど人生で一番幸福だったあの幼い自分の白昼夢。
でも、それはリボーン達や、皆と会いたくなかったと言う訳では無いんだ。
寧ろ逆、会えてよかったよ。
こてん、と首を傾げる。柔らかな琥珀の髪が夕日を浴びてきらきらと光を放つ。
そうして微笑む姿はまるで穢れを知らない少女の様で、
神々しく、そこにあった。
しかし踏み込んではいけないからこそ、人間は知りたくなると言う習性もある物で!
(知りたくなる、と言うと綺麗事に聞こえるから汚したくなる。とでも言おうか)
(・・・・汚す?いや、彼はもう既に、)
既に、
(犯されているのだ、ボンゴレと言う名の血の呪縛に)
それに気づいた時、リボーンは慄然とした。
らしくない、と思ったが(それでも思わずには居られなかった)
重く、一生抜けることの出来ぬ枷を嵌めているのにかかわらず、
ただただ微笑むことのできる目の前の男に。
慄然を、覚えたのだ。
(穏やかなその笑顔の裏で、どれ程恐ろしい獣を奥に隠し通しているのか?何てリボーンには想像出来なかった)
「でも、おかしいんだよね」
「もし、白昼夢であったとしても、」
「今リボーンと過ごしているこの時は嘘であって欲しく無いなあ、何て思っちゃうんだ」
ぼんやりと独り言の様に、そう呟いた。
その言葉を聞いてリボーンは帽子の下でニヒルな笑みを浮かべる。
「ばぁか」
(そんなうわ言聞くために俺を呼び寄せた訳じゃ無いだろう?)
そんな冗談を交えてみる。
その言葉に綱吉は苦笑を浮かべる。
(やっぱり手厳しいなあ、先生は)
お手上げと言う様に両手をあげて内心綱吉はひっそりと微笑んだ。
(矛盾、してる)
(この思いも)
(そしてこれからの未来も)
(全て隠し通せる何て思わないけど、)
あの漆黒の瞳に浮かべられていた感情は、何であっただろう?
(恐怖?戸惑い?それとも、好意?)
(いずれにしても、もう遅い)
(後戻りは出来ないだろう)
(どうか気づいて、何ておこがましい事は言わないから)
(気づかれる事の無い俺の思いも、全て溶けてしまえればいいのに)
(どうせ消えてしまっても、未練なんて残りはしない)
(狂人?褒め言葉として受け取っておこうか)
「でもね、残念でした」
(お前が期待してる様な事は無いから)
すい、と人差し指を唇にあてて、ゆるやかに笑う。
(その透き通った琥珀を悪戯っぽく細めてみせて)
(それを見た漆黒は酷く楽しそうに目の奥を歪めた)
「じゃあ、お前は俺を単なる話し相手にする為だけに呼んだってのか」
「そういうこと」
「暇人」
その言葉に綱吉はますます笑みを深めた。
「でも、嫌いじゃ無いだろ?」
(こんな戯れの時間がさ)
その言葉に、リボーンは楽しげに口を歪める。
「否定はしない」
(だが、肯定もしない)
それに素直じゃないなあ、なんて言い返せば今度は間髪無しに銃弾でも飛んでくるだろうかなんて綱吉はまんざらでも無いような気持ちで考えていた。
それは午後の何気ない戯れでした。
(水面下では、今にも闇に堕ちていきそうなのに)
(狂ってる?いいや、狂わずには居られないはずなんだ)
(今だってこんなにも望まぬ未来は訪れようとしているのだから)
作品名:それは午後の何気ない戯れでした。 作家名:白柳 庵