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美少女オタクと鏡音レン

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【おまけ】覚醒! -Side BLUE-




 マスターがレンの寝顔に悶えるほんの少し前。家の周りをこそこそと動き回る怪しい人影があった。片手にアイス携え、もう一方にカメラを携え、やたら長い青いマフラーを引きずる姿は、人目を引かずにはいられないというのに、本人は何かに夢中で気にする様子はない。
 アイスを一口うれしそうに頬張り、窓の中をこそこそと覗きこむ。その男の視線の先には、金髪の少年ボーカロイド。鏡音レン。
 むはっと男の鼻息が荒くなった。
 レンはマスターに調整を投げ出され、しょぼくれていた。ソファの上で膝を抱え、寝転がる。
「ああ、レンタン萌〜」
 この男、ショタコンである。
 言いつつ、カメラのシャッターをぱちり。それは犯罪なのだが、この男の頭のネジはどこかにぶっ飛んでしまっているようだ。
 レンが寝返りをうつ。寝乱れて、衣服がはだけた。
 どばーっと男の鼻から血が噴いた。
「ああ、レンタンいや、そんなっ むっは〜〜」
 この間は通りすがりの親切な兄を装ったのとは打って変わって、今日はど変態姿をさらけ出していた。
 やがて、レンが疲れたのかうとうととまどろみだす。
 ここぞとばかりにシャッターが切られた。
「ああ、いい表情っ。寝顔もかわいいなぁ〜。さすがレンタン」
 鼻の下が伸びきっている。同時に、あまりに見とれすぎて、アイスがでろでろになっているのに、男はやっと気がついた。慌てて男はアイスにがっついた。
 その隙に、というよりは単に偶然になのだが、マスターがレンの眠っているところに戻ってきたのだ。
 男は窓に張り付いた。
「あの野郎〜〜ぼくのレンタンに近づくなぁぁぁ!!」
 しかし、窓の中と外。どれだけ防音になっているのか、マスターは男の叫びには気づきもしない。
 それどころか、レンを小突き回し始めたのだからさあ大変。
「ぬああああ! レンタンをいじめるなぁぁぁ!! いじめていいのはぼくだけなんだぁぁぁ!!」
 だが、やはり気づかれない。
 男はあまりの悔しさに悶え始めた。はっきり言って気色悪い。
「マスター、許して……。俺、もっとがんばるからぁ……」
 ぐすっとレンがすすり上げた。
 ズドーーン。
 ロケット砲が男を直撃した。
「ゆるしちゃうゆるしちゃうゆるしちゃうよおぉぉぉ!!」
 男は、窓に再びへばりついた。だが、マスターは窓の中で悶えている男であって、コイツではない。
「マスタ……ぁ」
 まるで身悶えのようにレンが寝返りを打った。
 鼻息がまるで機関車の蒸気のようである。
「もう我慢できない! 今行くよレンタ〜〜」
 男は玄関のドアに向かって突撃した。もはやドアどころか壁もなにもぶち破りそうな勢いで。
 しかし、男がそれを実行することはなかった。
「なぁにやってんだいバカイト!!」
「ごふぁっ!!」
 男はきりもみに吹っ飛ばされ、もんどうりをうって転げまわった。その頬には見事な鉄拳の跡。
 ぴくぴくと痙攣しながら、男は顔を上げた。そして、顔面蒼白になった。
「メ、メイコしゃん」
「人様の家をなに覗き見してるんだい! 帰るよ!」
 ぐしゃっとカメラをフィルムごと粉々に砕き、青筋たっぷりのこぶしでもって女は男の襟首をひっつかまえた。男は、まるで背中を押さえ込まれた虫のように、無様に手足をばたつかせた。
「え、え、メイコさんそれはないよレンタン〜〜〜っっ!!」
 マスターがレンのあられもない姿にもんどうりをうっている中、男は女によってずるずると引きずられていく。
 変態男の末路とはかくも哀れなものなのか。帰ってから、男に果たして何が待ち受けているのか。それは、神のみぞ知るのである。
作品名:美少女オタクと鏡音レン 作家名:日々夜