深深。
静雄、と呼ぶ声を敏感に聞き取り目を覚ました。
シンと冷えた朝の空気の中もう一度。
「静雄」
呼ぶ声は薄暗い廊下の向かい部屋。臨也のものだ。
自らを呼ぶ声を、それ以外に知らない。
臨也は頭のおかしな男だった。
大層美しい見目を惜し気もなく晒している癖に誰にも心を許さないような、そんな男だった。
そしてそんな頭のおかしな男は今、一転して貧弱な子供に執着している。
それが不思議でならなかった。
静雄、と。また声が響く。
腰を上げて、そのまま立ち上がる。そろそろ臨也の元に行かなければ。
それにしても気になる事がひとつ。
静雄とは、なんの事なのだろう。
貧弱な子供はゆるりと立ち上がった。
朝の空気はまだ、キンと冷えている。