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カミングアウトはお早めに

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久し振りにまとめて取れたちゃんとした休み。それを日本から貰ったゲームの攻略に費やそうと考えたのがそもそもの間違いだった。招かれざる客が来ると知っていたら、トニーと何処かに出掛けたのに。
 嗚呼それとも、お菓子に釣られた俺が悪いんだろうか。でも仕方が無いだろう、それは。俺はドーナッツもアイスクリームもアップルパイも大好きだけど、フランスが作る絶品のお菓子は、お金を出したぐらいじゃ食べられないんだから。
 ……だけどやっぱり、家に招き入れるべきじゃなかったかな。

「止めてくれよ」
「なんで」

 背後から抱き付いてたフランスのその腕を振り払うと、特に怒った風も無く問い返された。怒っているのは俺の方だけだ。ゲームを邪魔されたから。

 ――でも本当は、知っている。

 どうしてフランスがわざわざ俺の休日を調べ上げて、手作りのお菓子を片手に俺を訪ねてくるのか。俺が何かに夢中になっている時に限って、ちょっかいを出してくるのか。

 俺を好きだと、聞いた。
 先月末にパリで開かれた、世界会議の最終日だった。
 勿論、信じてはいない。

 フランスの頭の中には、昔から可愛い女の子や美しい女の人、それに彼の厳しい審査基準をクリアしたほんの一握りの男のことしかないのだと、出会った時から知っている。嫌と言う程。
 しかも、その一握りの中には、俺は絶対に入らない。フランスはイギリスみたいな顔立ちが好みだし、彼みたいに普段から無駄に愛を振り撒いている人は、案外本命には奥手になりがちだ。例えば、いつまで経っても『良いお兄さん』の域を出られなかったり。

 だから、こうやってオフの度に俺を訪ねて来るのも、一体何の下心か分かったもんじゃない。もしかしなくたって、誰かと賭けをしている可能性は大いにある。

 ――つまり、一体いつまでに俺を落とせるか。

 イギリスは俺を溺愛してるから、相手はスペインかプロイセンあたりだろう。スペインかも知れないな。彼、俺のことが気に食わないみたいだから。相変わらず、趣味が悪い。勿論二人共。

「……なんでもだよ」
「それじゃあ止められねぇよ、アメリカ」

 そう言ってフランスは笑ったけど、それが今まで見たことも無いような表情だったから、俺は思わず目を逸らす。
 何だい、それ。一体何処に隠してた表情なんだい。

 ……嗚呼、でも、そんなに寂しそうに笑ったりさせているのは、本当に俺? それも演技?
 それとも――

「……二人は今頃、連邦会議でロンドンだね」

 呟いた声に、フランスは一瞬顔を伏せ、それから勢い良く立ち上がった。
 そのままキッチンに歩き出そうとして、足が止まる。お互いに背中を向けているから、此方からでは表情は見えない。
 分かるのは、声……だけ。

「信じてくれなくても構わない。それは案外難しいことだ。けどな……」

 震えて、なんか、いないはず。

「馬鹿にするな」

 ゆっくりと遠ざかって行く足音は、やけに寂しい。

「何なんだい、もう……っ」

 こんなことで、今まで通りの関係が保てるのだろうか。保てるだろう。表面上は。お互い無駄に年を重ねてはいない。
 今までだって、そうだった。
 自分の中にどんな感情が巣食っていても、ちゃんとそれを覆い隠してきた。それは必要のない感情だったから。

 それなのに、その努力を台無しにしようとするフランスの発言には心底腹が立つ。
 自分の欲望に忠実すぎるイギリスにも、何もかも分かっていて、それでも行動するカナダにも。

 いっそ、それこそ日本のように、二次元にだけ心を預けていられればいいのにと、何度思ったことか。

「どうすればいいんだい……」

 誰か、教えて欲しい。
 フランスを信じる方法を。
 フランスに愛されている、その証拠を。
 でなければ。

「……言えるわけ、ないよ」
「何を?」

 ペットボトルを2本、手にしたフランスの。
 優しい顔の。
 昔から見てきた。

「フランスが好きだってことをだよ」

 手からぽろりと、ペットボトルが落ちた。
作品名:カミングアウトはお早めに 作家名:yupo