02.アイス食べる?
篭ったその部屋から少しでも湿気を逃がそうと、窓は全開に。
「あーつーいー」
「夏だからな」
「む、半田冷静」
「いや、そういう…?」
誰もいない理科室で中身のない会話を交わす。中を吹き抜けた風が一瞬、全てを持って行ったような気がした。多分気のせいだ。
「風丸まだー?」
松野は本来の目的をもうすっぱりさっぱり忘れたように机に突っ伏している。本来の目的とは掃除なわけなのだが、果たして彼にやる気はあるのかないのか。
「先に掃除始めとこうぜ」
「嫌ー。先にするなら、半田一人でやっててよ」
顔を上げない松野に溜息をついてから、半田は雑巾をとりに理科室を出た。
振り返ると松野はまだ突っ伏していた。
「なにしてんの、お前ら」
スーパーの袋を片手に携えた風丸が、汗を拭いながら入口に立っている。
「掃除は?」
「松野がやらない」
突っ伏した松野は知らんぷりだ。
「マックス、やらないと帰れないんだぞ」
「…」
「まーつーのー」
「うー」
顔だけを上げた彼は酷く不満げで、それが少しだけ面白かった。帽子もくたりとうなだれている。
風丸が机に置いた袋から、アイスが寂しそうにこちらを覗いていた。
うだるような暑さ。掃除はまだまだ終わりそうにない。
とりあえずあのアイスが溶けてしまう前に何かをしよう、と半田は思った。
思うだけになるかもしれないのは毎度の事だった。
作品名:02.アイス食べる? 作家名:ろむせん