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ヒオウ・ヒナタ~~溺愛魔王と俺様~~

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罹災1



ヒオウは考えが甘かった。

ある日ふらりと現れていつもの如く石板前に立ち寄ったヒオウはナナミがいる事に気付いた。

「あれ、ナナミちゃん?どうしたの?」
「あ、ヒオウさん。そうだ、丁度良かったー。クッキー焼いたんだー。でね、ヒナタにあげようと思ってここにさっき来たんだ、あの子ここによくいるから。でもルック君が今日は見てないっていうからね、せっかく焼き立てだし、ルック君にあげようとしてたのー。ヒオウさんも、どうぞっ。」

ルックを見ると、それはそれは青い顔をしているところだった。
ああ、声掛ける前に気づけば良かった。
ナナミはニコニコとカゴに入ったクッキーを差し出してきた。

見ると、それはとても美味しそうではあった。
しかしこの間の皆の反応とヒナタの言っていたことを思うと躊躇する。

「あー・・・うん・・・。」

しかしこれは小さなものだし、たかだかクッキー一枚、相当不味く作ることは出来るだろうが、まさか危険物とまではいかないのではないだろうか。
無視するのもニコニコと差し出すナナミにも悪いし・・・。

ヒオウは思い切って1枚とり、口に入れた。

「・・・どうもありがとう、ナナミちゃん。」

ヒオウはニッコリと言った。

「ううん、じゃあたくさんあるから、食べてねっ。」

カゴをヒオウに渡して、ナナミはニコニコと手を振って去って行った。

「・・・あんた・・・大丈夫・・・?」

ルックが珍しく心配そうに声を掛けた。

「・・・吐くつもりが・・・飲み込んでしまっ・・・、ちょ・・・ルッ・・・こ、れ・・・持っ・・・」

様子のおかしいヒオウに慌てたルックが急いでカゴを受け取ると、ヒオウはその場で倒れてしまった。


「・・・う・・・ん・・・」
「あっ、気付いたっ。良かったヒオウっ。」

顔を覗き込んでいたヒナタは目を覚ましたヒオウに気付き、ほっとしたように言った。
その声を聞いた医者のホウアンがやってきた。

ここは医務室だった。
さすがのルックも目の前でナナミ料理にやられてばったり倒れたヒオウに慌てて、すぐさまヒオウを抱えて医務室にテレポートし、その後にヒナタを呼びに行ったのだった。

ホウアンがヒオウに聞く。

「ヒオウさん、どうですか?具合は。」
「・・・俺に話しかけてんのか・・・?ヒオウ?って何?」

ホウアンでなくとも分かる。
あきらかに、ヒオウが、変だ。
ヒナタは顔を引きつらせピシリとかたまった。ルックも思いっきり引いている。

「ちょ、ホウアンー、どういうことこれ。」
「ふーむ、ショックからくるものでしょうか・・・。えーと、あなたは自分の事がわかりますか?」
「え?何だそれ、存在理由とか聞いてんのか?哲学的な話?・・・ってあれ?」

一瞬馬鹿げた事を・・・という表情をしたヒオウがハッとなった。
そして目をきょときょとさせ、少し青くなった。一同はやっぱりという顔をする。

「うっそん。何だよこれ。俺、誰?」
「・・・ホウアン・・・。どうしよ。」

ヒナタが困ったように言った。
ホウアンはとりあえず他には異常はなさそうだと述べ、こればかりは様子をみるか、たまに軽いショックを与えてみるくらいしかないのではと残念そうに答えた。

ヒナタは焦った。
とりあえず体は問題ないとのことなので呆然としているヒオウにベッドから出てもらい、ルックに頼んで3人でシュウのところにテレポートしてもらった。


「なっ、何用ですかな?」

いきなり問題児達が目の前に現れたので少しびっくりしつつも、すぐに自分を取り戻したシュウは何事もないように問いかけた。

「シュウっ。ヤバイ。」

ヒナタはシュウに詰め寄った。
そしてルックに今までの出来事を語らせた。

「あれ、ちょっと帰らせられないよな。絶対グレミオさん煩いだろうし、何よりも異常なくらいヒオウを奉ってるレパント大統領の怒りがヤバイ。」
「・・・おまえの言い方には少々問題があるが、それはさておき、確かにトランとの同盟を組んだばかりだというのに大統領の機嫌を損ねるのはまずいな。まあ今までもヒオウ殿はたまにこちらに滞在される事はあったんだろう?」
「うん、まあ。でも大抵帰るし、いても2、3日いるかどうかってくらいなんだよなー。」

大した案が出るわけでもなかったが、とりあえず2、3日様子を見るしかないだろうという事と、どこから噂が漏れるか分からないからどこかに隠れてもらうしかないだろうとシュウは言った。

「って事は監禁か!?」
「・・・おまえという奴は・・・。聞こえの悪い。まあでもとりあえず、おまえの姉のしたことなんだからおまえが責任を持って世話するしかないだろう?とりあえずおまえの部屋に滞在してもらおうか。」
「えーまじで。つか僕の部屋は割りと出入りあるけど?みんな勝手に入ってくるんだよなー。」
「おまえには伝染性の高いウイルスかなにかにかかってもらおう。ナナミですら近寄れないようこちらから指示を出す。ああ、部屋の前の見張りもその間離れてもらって、そこはルックにしてもらう。」
「えーっ。何だよそれーっ。僕まで監禁状態!?」
「ちょ、何で僕がっ。僕は石板の・・・」
「煩い。・・・ヒナタ殿。あなたはここの盟主。トランの英雄をそんな目にあわせてるんですから、それくらいの責任、おえますよね?ルック。お前は自分が助かりたいばかりに災難を彼に押し付けたようなもんだと自覚しろ。少しくらい石板から離れてもどうってことあるか。」
「・・・ちっ。」
「・・・最悪・・・。ていうか伝染防止でみなを離すっていうなら僕だって・・・」
「まあ、お前はルックだしな。」
「ああ、まあ、ルックだしねー。」
「ちょ、また?また僕だからって納得!?何な訳!?」
「あーもうルック煩いよ。僕だって渋々なんだからー。」

その時今まで黙っていたヒオウが前へ出てきた。

「・・・おい・・・。その前に俺の意思は?何俺無視して勝手に監禁とか、物騒な話進めてんだよ。だいたい話見えないんだけど?」

口は悪い。
いつもに比べて断然悪いとは思う。

だが。
3人は思った。

いつもなら絶対無駄にニコリと笑いつつも、ここは絶対ヒオウの背後は真っ黒な筈。
だが今のヒオウは不機嫌そうだが、それだけであった。
普通に、不機嫌。
ヒナタが言った。

「わー、誰、この人。」
「えっ!?ちょっと。俺だけじゃなくお前らも俺を知らないって事?ますます今の話が見えないじゃねーかっ!?」