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ヒオウ・ヒナタ~~溺愛魔王と俺様~~

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嫌悪



ティント市でもヒナタは盛大に倒れたが、ヒオウの看病が効いたのかすぐに元気になっていた。

一同がここに来ていたのには理由があった。


ネクロード。


この下劣な吸血鬼は過去にヒオウも一度戦ったことがあった。
その時に倒したと思っていた。
しかし移し見の術か何か知らないが、ネクロード本体に止めを刺したわけではなかったらしく、まだしぶとく下衆な事をやらかしているのだった。


だがどうやら今度こそ倒す事が出来そうである。
吸血鬼ハンターとやらのマリー家の人間と、奪われた月の紋章とやらの真の紋章の持ち主だという吸血鬼の始祖が仲間となった。

この吸血鬼の始祖とやらは一見か弱そうな(というか青白すぎる顔色の)美少女であったが、どうやら800年は生きているとのことであった。

「じゃあその抜け道からティントに向かってあの変態を倒すぜっイェーッ。」

数日前にはそれこそ青白い顔色でぶっ倒れていたとは思えない元気なのりでヒナタが言った。

同行するのはヒオウ、ビクトール、ナナミ、ルック、そして新たに仲間になった例の2人、シエラとカーンであった。

「えらくノリノリだな、ヒナタ。」
「ほんに元気な小僧じゃのお。」

ビクトールとシエラが言った。
ヒオウが聞く。

「まあ、確かに奴は変態だけどさ。この間ヒナタとナナミちゃん2人だけで鉱山の中で奴に会ったよね、まさかナナミちゃん、何かされたの?」

するとヒナタとナナミはフッと顔を伏せプルプルと震えだす。

え?ホントに?と皆が心配しだした時、ナナミがまず呟いた。

「・・・あの変態、あたしをまったく無視して、力が抜けて動けないヒナタに・・・」
「・・・え・・・?」

次にヒナタが搾り出すように言った。

「・・・あの変態、力が抜けたこの僕の首筋を舐めやがったんだ・・・。紋章の結界があったんか、変な魔法にはかかんなかったけどさ。」

しん、と静まりかえるこの場。
次の瞬間、ゴオッと空気が蠢いた。
周囲がどす黒い何かに染まっていく感じがする。

暗黒の澱んだ空気に、静電気が帯びているようで、オゾンの香りが溢れていた。

「じゃあ、行こうか?」
「さっさと行こうかのお?」

魔王降臨。

ルックは目を逸らしながらそっと思った。
しかもダブルで・・・。
そこにはそれは素敵な笑顔の某英雄と始祖がいた。

精鋭部隊だったからか、はたまた魔王な2人のお陰か、もしくはそれに怯え先をいそいだ熊や暑苦しい見た目のハンターのお陰か・・・、兎も角一同は目的の場所にあっという間に到着した。

「うわー、やっぱ変態だーっ。小さな子供なんかさらって泣かせて、最低だよあれ。」

無理やり連れてこられ泣いている市長の娘、リリィを見てヒナタが言った。

「だれが変態ですか。おや皆さんお揃いで。何度やっても無駄ですよ。大人しくこの私の配下になってはいかがです?特にヒナタさん、あなたなら大歓迎致しますよ。特別に側においてあげましょう。」

ネクロードがヒナタ達に気付き、ニヤリと言った。

「うわ、ゴメンこうむるよ、絶対ヤダ。」
「ネクロード、てめえ、観念するんだなっ。」

ビクトールが近づいていく。

「面倒くさいですねえ、何度やっても無駄だというのに・・・。鬱陶しいのでまた今度お相手してあげましょう。」

そう言ってネクロードは消えようとした。
だが何かに憚られて出来ず。

「時間を稼いでいただいたおかげで完了しましたよ。」
「久しいのお、ネクロード。」

カーンとシエラが出てきた。
ネクロードを中心にカーンが特別な結界を張り、そしてシエラは月の紋章の力を封じた。

「言ってやる、言ってやる。今度こそ年貢の納め時だぜっ。いくぜ、相棒っ。」
『気安く呼ぶな』

もう術を使って手ごたえ無くさせることも出来なくなったネクロードにビクトールが嬉しそうに言った。
星辰剣とともに向かっていく。

「行こうヒナタ。あいつ許せないよっ。」
「うんっ。」

ナナミもヒナタに呼びかけ、二人も向かって行った。

後ろで、今まで黙っていたヒオウがすっと手の甲を向けて上げる。
同じく普通なら傍観していたであろうシエラも手を上げた。
だれも2人の顔を見てはいなかった。ルック以外は。

ルックはこの時程自分も熱くなって皆と一緒に駆け出せば良かったと思ったことはない。
もう、血の通った人としてありえない(まあ一人は人ですらなかったが)、そんな冷たく残忍な、笑顔。

ルックは呟いた。
絶対これ夢に出る。
いっそいつもの灰色の世界の夢の方がましだと思えた。

そしてふと気付いた。
ヒオウの上げている手、いつもと逆?

「・・・あいつただでは死なさないよ・・・少しずつ弱って、殺してくれって思うほど苦痛にまみれればいい。だいたい過去に遡った時から思ってたけど、何したい訳?自分の親とも言えるような始祖から大事なもん盗むくらいなら、もっと一貫性を持ってやりたいことをまず1つに絞ってから計画を立ててやりなよ、大人気ない。何誰かに使われてテッドの村襲ったりしてる訳?その後も意味も無く何、人襲ってんの?え?月の紋章、いる?挙句の果てに花嫁って?何考えてんだ?その後3年もたって漸く現れたかと思うと今度は帝国ね。バカですか?その上あいも変わらず花嫁?しかもロリコンなうえにヒナタだって?」

・・・小言・・・。
いつの間に破魔の紋章宿したんだ・・・。

しかも大技使わず第一魔法の小言でネチネチと攻撃している。

アンデットに効果抜群の上にヒオウの魔力が高い為、致命傷にはならないが相当な苦痛をネクロードに与えていた。
してその合間を縫ってシエラが冷ややかに電撃をくらわせている。
しかもこれも第一魔法で・・・。

これは相当な嫌がらせだ・・・。
決して死には至らないが攻撃の順番すら無視したこの連続攻撃は本当に苦痛で苦痛で仕方がないだろう。
ルックは魔法攻撃を忘れて青くなって傍観していた。

ぼろぼろになり、シエラに言われて月の紋章をかえすネクロード。

最後にビクトールの攻撃でやられた時、叫んでいたが、ほっとしたのではないだろうかと思わずルックは考えてしまった。

・・・何はともあれこの地域は平常に戻った。
ヒナタも嫌な思いはしたが仲間も増え(一人、帰ったらちょっと虫でもけしかけて遊んでやるっと少しイラッとさせられたクロワッサン好きの奴も含む)、とりあえず一件落着めでたしめでたし、と本拠地に帰る一同。

「ていうかネクロードって女好きなくせにそれだけじゃあきたらず・・・ほんと気持ち悪い奴だったよ。」

まだ不満げなヒオウにルックが言った。

「・・・まあ、多分あれもヒナタの紋章に惹かれたってのもあるんだろうね。闇は光に惹きつけられるんじゃない?現に・・・」
「・・・ああ、あの『始祖様』、ね。」

今もシエラがヒナタにニコニコと何かを話しているところであった。
ヒオウはそれを面白くなさそうに見る。
ルックがため息をつきながら呟いた。

「闇同士は近親憎悪ってとこか・・・。」