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ヒオウ・ヒナタ~~溺愛魔王と俺様~~

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芳醇4



「さて、まだ聞かせてはもらっておらんのぉ。おんしがなぜここでそんな事をしているのかを。」

シエラがまだその場でへたりこんでいた少年、ヴィンスに向かって言った。

ヴィンスは両手、両膝を地面につけていたが、おずおずと顔をあげてからその格好のまま言った。

「・・・我は物心ついた時にはもう一人だった。生きていくすべはなんとなく分かっていた。ただ人間から血をいただいてばかりいると逆に危険だという事は太古からなる記憶で知っていたから、たいていは小動物などからいただいていた。・・・まずかったが・・・。」

最後につけたした言葉を聞いて、ふとヒナタは笑いそうになったがこの場ではふさわしくないとさすがに思った為ぐっとこらえる。

このヴィンスとやらは、老けたような口のきき方をするが、どこかやはり子供じみている。
きっとまわりにしっかりした大人などがいなかったせいだろう。

・・・さみしかったのかな・・・?ふとヒナタは思った。

「・・・そうやって今まで生きてきた・・・ここに着いたのはたまたま・・・。もともといわくのある屋敷だったらしく、人が近寄らない。我にとっては好都合であった。たまに人里に出て血をいただくにしても。・・・ただ・・・」

ヴィンスはまた手足をつけたまま俯いた。

「・・・さみしかったの?」

ヒナタがヴィンスに向かって聞いた。
ヴィンスはハッとヒナタを見る。シエラは黙ったままである。

「さ・・・さみしいなど・・・ただ・・・我は・・・あなたが欲しいと思っただけだ。」

すこしきょときょとさせたと思った目を、最後にはじっとヒナタを見ることでその思いの真摯さが伝わるようであった。

「でも・・・ちょっと強引すぎるよ。」
「・・・。知らぬ。我はどうすればいいのかなどは知らぬ。だから思ったとおりにしただけだ。」

そこでシエラがため息をついた。

「もう、よい。おんしのやり方は間違っておるという事をわからせねばならぬな。」
「って、どうすんのさ、シエラ様?まさか物騒な事考えてるんじゃあ・・・?」
「あやつといっしょにするでないわ。のう、ヴィンス。わらわは散り散りになり、今もなおどこかで生きているであろう我が子らを今探し歩いておる。またはるか昔のような村をの、つくりたいと思うておるのじゃ。おんし、よかったらわらわと一緒にこんか?その軟弱な性根をたたきなおしつつ、おんしに仲間というものがどんなものか教えてやろうぞ。」

冷たい顔でしかし暖かい目でシエラはヴィンスを見た。

「ちょ・・・長老・・・」
「ええ、そんな事してたんだぁ。ちっとも知らなかったよ。でもそれ、いいね。ねえヴィンス、とてもいい事だと思うよ。ここでずっと引きこもってるより絶対、いいよ。」
「・・・だが・・・我は・・・明るい日中は苦手だ・・・」
「ふ・・・。そんなもの、いずれ慣れるわ。死にはせん。」

シエラは軽くあしらうように言うと、さて、と踵をかえした。

「何をしておる?とっととついてこんか。わらわの荷物を玄関ホールに置きっぱなしにしてある。おんしにそれらを持たせてやろうぞ。ほら、さっさとせぬか。」

そう言って部屋を出ようとした。

「ちょ、ちょっと待ってよシエラ様。僕まだつながれたままなんだけど?」

ヒナタが慌ててそう言った。

「おや、そうであったの、すまぬすまぬ。ヴィンス、ヒナタの枷をはずさんか。」

ヴィンスは黙って立ち上がり、どこに持っていたのか鍵を取り出してヒナタの手枷や足枷をといていった。

「ふうー、助かったぁ。じゃあ皆で降りようか。」


ホールでヴィンスがシエラの荷物とともに自分の荷物をまとめている時に、シエラがヒナタに言った。

「のう、ヒナタ。おんし、もしかしたら吸血行為がしたくなるやもしれんな・・・」
「ええ!?冗談じゃない、僕はまだまだ血よりも美味しいものが食べたいよー。」
「ふ・・・。ちょっと、良いか?」

そう言うと、シエラはヒナタの肩を持ち、え?と驚いているヒナタの首元、ヴィンスに噛まれたところに自分の口をあてた。

ヒナタがさらにええっ?と赤くなり驚いてるのを無視してシエラはしばらくそのままでいた。

「とりあえず封じておいたぞ。おんしのその紋章の力もあるしの、やがては消えゆくであろう。ただ・・・すぐに消えるものでもない。気をつけることじゃな。まあおんしの程度では人を吸血鬼にする力はないが。」

どうやらヒナタの体内に送り込まれていたヴィンスの力をワクチンのように抑えてくれたようである。
しかし病気にかかった時のように、完治するのは徐々に、という事であろう。

「えー、僕、大丈夫なんか?」
「まあ、どうせ被害にあうとしたら近くにいるあやつくらいなもんじゃろぅ。わらわとしては別に問題ないと思うぞえ?」
「もう、シエラ様はほんとにー。」

ぶう、と膨れ面をしているヒナタに、ヴィンスが近づいてきて言った。

「・・・その・・・、すまなかった、な。・・・我は今でもあなたが欲しいと思う・・・。だがとりあえず我のした事は間違った事なのだな?ゆえに一応あやまらせてもらった・・・。だから・・・」

おずおず、といった様子でヴィンスが話す。
ヒナタは、ん?と首をかしげた。

「・・・だから・・・その・・・」

ヴィンスは目を伏せて言い淀んだ。

「ヴィンス。よかったら僕と友達にならない?」

なんとなく察して、ヒナタから切り出した。

「え・・・い、いいのか?」
「うん、もちろん。そのかわりさっきみたいな事はもうすんなよな。」

ヴィンスはコクコクとうなずく。シエラはフッと笑った。