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FF7ヴィンセントのお話

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【8.宝条】


 セピア色に照らされる街にしとしとと雨が降っていた。
 ミッドガル、魔晄キャノン。奴がそこにいた。
「宝条!」
 詰め寄るクラウドたち。
「これはこれは失敗作か・・・それにお前はもしかして、ヴァレンタインか?」
「久しぶりだな、宝条・・・」
 彼は静かに話す。
「相変わらず、お前は美しいな、私に感謝することだ」
「・・・・・・」
 鋭い紅い瞳だけが宝条を刺す。
「まあ、そんな怖い顔をすることもないだろう。ところで、今日は一体何の用だね。わざわざ、私に君のすばらしい姿を見せに来てくれたのかね?だったら、早く見せておくれ・・・私もそれ相応の格好で出迎えてあげるよ、ひひひ・・・」
 そう言う宝条の姿がみるみる変貌する。
「ひひひ、私は負けてしまったよ。科学者の欲望にね。偉大なるジェノバの細胞を私に移植したよ。これで、私も至上の存在となる」
 どろどろとしたわけのわからない生命体に変わる宝条。かろうじて腕のようなものが手招きをするかのように揺れている。もはや人の形ではなくなった宝条の表面でジェノバ細胞が蠢く。
「・・・愚かな奴。どうやら眠るのは私ではなく貴様だったようだな!」
 デスペナルティが火を噴く。宝条の右腕が吹っ飛ぶ。すぐに再生する右腕。今度は左腕を弾丸が射抜く。
 続いてクラウドの剣が同じく左腕を切り裂き、シドの槍が貫く。
 左腕を失った宝条はその場に崩れ去りまた別の生物の形を成した。
「これが私の最終形態だ。さきほどまでと同じだとは思うなよ」と同時に炸裂する連続攻撃。あっという間にクラウドとシドが眠らされた。
「ふふふ、やっと2人になれたな、さあ早くお前も変態するのだ」
 宝条は容赦なくヴィンセントを攻撃する。
 寸でのところでかわしてデスペナルティで反撃する。弾は宝条に命中するが、すぐに回復する。おそるべきジェノバの再生能力によって。
「どうだ!このジェノバの力!この私が倒せないようではセフィロスなど倒せないぞ。それとも実の息子などはじめから殺す気はないかー?」
「貴様・・・」
「ふふふ、私が知らないとでも思ったか。ま、私にとってはどうでもいいことだったがな、どうであれ、セフィロスは私が手塩にかけて育て上げた最高傑作だ。その程度ではお前は足下にも及ばん、親子対決にもならんわ、ははは!」
「戯れ言はやめろ!」
 デスペナルティが再び火を噴く。
「そんな武器は私には通用しなーい!!真の力を見せるのだ、ひゃはは!」
 宝条がヴィンセントを袈裟切りにする。裂けた肩から鮮血が吹き出す。
「それほど望みとあれば、見せてやろう・・・」
 そう言うとヴィンセントの身体が光り出した。
「ひゃっはは、やっとその気になったか、さあ何に変わってくれる?ガリアンビーストか?デスギガスか?それともヘルマスカーかな?」
 光の中から現れたのは・・・悪魔。
 紅い翼、黒く光る黒紫色の肌・・。翼を広げ、彫像のような身体が宝条の前にたちはだかった。
「おお、それはもしかして・・・カオス・・・なんと美しい・・・想像以上だ。やはり私は天才だ!」
 恍惚とした表情で宝条はカオスにみとれた。
 その刹那、カオスの翼の縁が銀色にきらめき、宝条に一閃が走った。
 宝条の胴がずれた。ジェノバが再生を開始する。間髪入れずに、カオスの銀色の刃が宝条を襲った。
 ジェノバの再生能力が間に合わない。
 桁外れの破壊力。
 慌てた宝条が雷神を呼び、カオスに浴びせる。
 カオスはその攻撃をものともせず、召還魔法を唱える。
 魔界から呼び寄せられた魑魅魍魎が宝条に群がり、食らい尽くす。
「うぎゃー!」
 宝条はその場に崩れ落ちた。ジェノバ細胞は死に絶えた。
 カオスが宝条の前で静かに浮遊している。
 虫の息の宝条がつぶやいた。
「・・・ふ、あまりに美しいので見とれてしまったのが敗因だな。いや、にわか仕込みのジェノバでは初めから歯が立たないということか・・・すばらしい破壊力だ。お前は太古に存在したと言われる魔族の化石から生み出した・・・お前もまた私の最高傑作だな・・・魔族対天からの厄災・・お前達の戦いが楽しみだが、見ることができなくて残念だよ、先に地獄で待っているからな・・・」
 宝条はそのまま息絶えた。
 敵を討ち果たし、カオスの意識は奥底へ消えた。
 朽ち果てた宝条の傍らにヴィンセントがたたずんでいた。
「宝条よ、永遠に眠るがいい・・」
 雨が彼の黒髪をしっとりと濡らしていた。

作品名:FF7ヴィンセントのお話 作家名:絢翔