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FF7ヴィンセントのお話

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【7.ルクレツィア】


 ニブルヘイムの近くに大きな滝がある。その裏側に道が続いていた。クラウド達は何気なくその中へ入っていった。その部屋は天井の隙間から陽光が差し込み、うすく照らし出されていた。ゴーゴーという滝の音が遠く微かに聞こえている。そして1人うつむいている女性の姿があった。彼女はつぶやいていた。
「セフィロス・・・ヴィンセント・・・」
 ヴィンセントが反応した。
「その声はルクレッツィア!?」
 女性が顔を上げた。
「・・・!あなたは・・もしかしてヴィンセント?」
「ルクレッツィア!」
 ヴィンセントが彼女のもとへ駆け寄ろうとする。
「来ないで!」
「彼女は一体?」
 クラウドが尋ねた。
「彼女がセフィロスを産んだ母親だよ」
 そしてヴィンセントは静かに彼の過去を簡単に語った。自分の罪と罰のことを。
 クラウドはそこにいたシドの腕を引っ張り、ヴィンセントに耳打ちをした。
「外で待ってるから・・」
「すまん・・。クラウド」

 淡い光につつまれた部屋に二人は立っていた。
「ルクレッツィア、生きていたのか・・」
「私・・、死んでしまいたかった。みんなの前から消えたかった。だけど、ジェノバが死なせてくれない。私のかわいいセフィロス・・。あの子を一度も抱くことができなかった。それが私の罪・・」
 彼女は彼の突然の訪問に少し興奮しているようだった。
「ルクレッツィア・・」
 再び近寄ろうとするヴィンセント。
「いや、来ないで!私は人間じゃないの。ジェノバがジェノバが・・・」
「落ち着け、ルクレッツィア。君は人間だよ。昔と変わらない、今でもきれいだ・・」
 いつかの優しい瞳で彼は彼女に語りかけた。
 何かを思いだしたかのようにヴィンセントを見つめるルクレッツィア。
「久しぶりの再会だ。少し話をしてもかまわないか?」
「え、ええ・・」
 相手が落ち着いたのを確認し、ヴィンセントはそっと彼女のそばに寄りそった。
「ずっとここにいたのか?ルクレッツィア」
「ええ、ずっとセフィロスとあなたのことを考えていたわ。あなたを最後に見たのもついこの前のように感じるわ。宝条に撃たれて、ひどい怪我してて・・・宝条が実験台にしようとしてて・・もう助からないと思った。ヴィンセント・・、あなた生きているのよね」
 彼女の手がヴィンセントの頬を撫でる。
「ああ、生きているよ・・」
(もはや人間ではなくなってしまったがな・・)
「いままで何していたの?」
「眠っていた」
 彼女が彼の顔をのぞき込む。
「瞳の色・・変わった?」
「ああ・・」
 彼女の手が彼の髪に伸びた。
「髪の毛、伸びたんだ。一瞬誰だかわからなかったわ」
「眠っている間、身体はほとんど歳をとっていないようだが、髪だけは伸びた。不思議なものだ」
「そう・・・それって宝条に何かされたから・・?」
「まあ、そんなところだろう」
「でも、よかった。ヴィンセント、他は全然変わってなくて・・・」
(いや・・・変わってしまったよ・・・)

「ジェノバって古代種じゃなかったんだってね」
「知っていたのか?」
「うん、一度だけファレミス博士が私を捜してここに来てくれたの。その時教えてくれたんだけど、セフィロスのことはもう博士も知らなかった。天から降ってきた厄災、ジェノバ・・・セフィロスはどうなってしまったの?教えて、ヴィンセント」
「セフィロスは・・・・・・死んでしまったよ」
 彼の表情に苦渋の色が浮かぶ。
「ふふ、優しいのね、ヴィンセント。下手な嘘はやめてちょうだい。私にはわかるの、漠然としているけど、ジェノバを通じてあの子のイメージが伝わってくるの。確かに5年前にあの子は死んだわ。でも今も生きてるの・・・でも、もうあの子ではなくなってしまった・・・」
「セフィロスは英雄だったよ。だが今は・・・私は彼をこの手で殺さなければならない。すまない、ルクレッツィア」
「うん、わかってるわ、それはかまわないの。ただ・・・あの子は宝条の子供じゃないの。あの子は・・・」
「わかっている」
 ルクレッツィアの目から涙があふれ出す
「ごめんね、ヴィンセント・・・私、何もできなくて・・・私のせいでいつもあなたに迷惑ばかりかけて、あなたを苦しめてばかりで・・・」
「私のことなどかまわない。泣くな、ルクレッツィア。君はいつからそんなに泣き虫になったのだ」
「えへへ、ごめんね。ほんと、そうだよね。私、滅多なことでは泣かなかったのに変だよね」
 ルクレッツィアは泣き顔で微笑んだ。
 ヴィンセントは静かにうなずいた。
「・・・そろそろ仲間のところへ戻らなければならない」
「待って、ヴィンセント。これを」と言って彼女は1丁の銃を差し出した。デスペナルティだ。
「これは・・・懐かしい。君が持っていたのか」
「ええ、ここまで持って来ちゃったの」
 彼は彼女からそれを受け取り、器用に手の中で回した。デスペナルティはまるで主との再会を喜んでいるかのようにくるくると回った。
「あ、それからあとこれを。役に立つかどうかわからないけど・・」
 彼女が差し出したのは「CHAOS」と綴られたアンプル管だった。
「もらっておこう」
(十分すぎるほど役に立つさ・・・)
 彼はそのアンプル管を握り締めた。

 彼女のもとを去る彼の背中に彼女のせつない声が響いた。
「セフィロスはジェノバの中で苦しんでいるわ。あの子をライフストリームの中に返してあげてね。お願い!」
 ヴィンセントは振り向かなかったが、代わりに彼の右腕が高々と上げられた。

 その夜、ヴィンセントはカオスを自らの身体に注入した。場所はニブルヘイムの一軒宿。二十数年前にベースとなる新種細胞を植え付けられた村、一時の逢瀬を重ねた部屋。今度は何の苦痛を感じることなくカオスは彼の身体に吸収された。彼が全く抵抗せず、自ら進んでカオスを受け入れたからだ。
「これでますます人間から離れるな・・」
 窓辺にあの日の彼女の幻影が浮かぶ。
 相変わらず、村は静寂につつまれていた。

作品名:FF7ヴィンセントのお話 作家名:絢翔