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りりなの midnight Circus

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第十四話 クリミナル・エア〈後〉


 十数分前、アリシアとレイリアが見つめた空の向こう。
 先ほどから代わり映えのしない状況を俯瞰し、エルンストは公安も警察も無能な連中ばかりかとため息をついた。
『お前の考えもわからなくないが、連中もあれで精一杯何とかしているつもりなんだろうよ』
 そんな彼の意識に再びベルディナの声が割り込んでくる。
『あんた、まだいたのか。どうやら教導武官正というのも暇な役職なんだな』
 エルンストはすでにベルディナに対して敬語を使っていなかった。
『まあ、そうだな。ここんところは一日の睡眠時間が30分程度になるぐらいには暇だな』
 念話の向こう側でベルディナが笑っていることが手に取るようにわかった。
『で? 暇人であるあんたがいったい俺に何のようだ? あいにく俺は、ビルの上で寝そべってられるぐらいには忙しいんだがな』
 エルンストのその皮肉交じりの言葉にベルディナは少しだけ口をつぐんだ。
(このまま消えてくれると助かるが)
 エルンストはそう願うが、彼の気配が消える様子はない。どうせまた、やりたくもない厄介ごとを押し付けようとしているのだろうとエルンストは予想し、はたしてそれは現実となった。
『なあ、エルンスト。お前は、さっき、公安も警察も無能な連中だと思ったな』
『…………』
 エルンストは答えるつもりはなかった。そんなことを明け透けに口にしない程度のモラルは彼にもあったし、何よりベルディナの言葉に肯定を返すのも癪だったからだ。
『だったら、お前ならどうする?』
 それは挑戦なのだろうか、いや、単なる挑発なのかもしれない。そういうことで彼はエルンストを更なる深みへといざなおうとしている。彼にはそう思えた。
『それは、俺が考えることではない』
 そう、彼の仕事は自ら考えることではなく必要とされたことを一首違わず遂行することだ。余計なことは考えず、ただこの身を部品として考えることで彼はあらゆるミッションを執り行ってきた。
 彼はそれを取り崩そうとする。
『安心しろ。これは秘匿暗号回線だ。たとえ傍受されても暗号解析には2万年以上かかる。だから、お前に聞いている。お前ならどうする?』
 なぜ彼はそんなことを言うのだろうか。エルンストの技能を知るベルディナなら、エルンストがどのような答えを返すかなどすでにわかりきっていることだろうに。
作品名:りりなの midnight Circus 作家名:柳沢紀雪