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みとなんこ@紺
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ハミングバード

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1.





一定のリズムを刻んで進む針の行方を目で追いながら、カバンを閉じる。
「・・・そろそろ、かな。ちょっと早いけど」
『準備出来たか?相棒』
「ばっちりだよ!じゃ、行こうか!」
『ああ』



「母さん、じぃちゃん、行ってきまーす!」



ちゃんとご挨拶するのよー!と、気をつけてのー、の2つの声に送られて、
遊戯は晴れ上がった青すぎる空の下、夏の、焼けたアスファルトの上を走り出した。





「結構早く出てきちゃったね~」
よ、と結構重くなってしまったカバンをかけ直しながら、遊戯は心持ち人気の少ないような気のする通りを見渡した。
既に盆休みに入ってしまっているのだろうか、いつもはこの時間開いている筈の店もシャッターは下りたまま。
見慣れた町並みの筈なのに、何処か違う街に来たような。

『・・・いつもより静かだな』

傍らで、辺りを見まわしながらもう一人の自分が呟いた。
くしくも同じ感想を抱いたらしい。
それだけのことなのに、そんなことにすら嬉しくなって遊戯は笑った。

・・・それにしても、何でこんなに静かなんだろうと思ったら、そうか、セミだ。
「今日は鳴いてないね」
『いつもよりかなり時間が早いからな』
「セミもお盆休み入っちゃってるみたいだねー」

ああ、声まで弾んでる。
歌い出しかねないほど上機嫌な相棒を見下ろして、もう一人の遊戯は小さく笑ったようだった。


楽しみで、楽しみでしょうがない気持ちを抱えて、昨日からずっと大変だった。
我ながらホント、子供みたいだと思うけど。

いや、本当はもっと前から、ずっと楽しみにしてたのだ。
決まってから、ずっと。

「ねぇ、もう一人のボク」

傍らの彼が振り返る。
赤い瞳が、揺るぎないものを湛えて、真っ直ぐに自分を映す。



「夏が、来るよ」



彼は眩しそうに僅かに目を細め、軽く頷いた。







さて、何をこんなに楽しみにしているのかというと。
今日から、いつものメンバー集ってのちょっとした旅行なのだ。といっても1泊2日なので、そうたいしたものでもないかもしれないが。
それでもまたとない、特別なイベントだった。

一学期、学期末テストが恙無く(一部除く)終了したその当日。
会議場所、と馴染みの深いファーストフードで皆でささやかな打ち上げをしていた時に急に誰かが言い出して、あれよという間に決まってしまった。
が、問題はそこからだ。

夏の刈り入れ時、バイト三昧の予定をいれるつもりの城之内や杏子。
家の悪ガキどものお守+夏だけの隠れ短期バイト組の本田。
親元から離れて暮らしている為に、帰省するところだった獏良。
夏休みに合わせて催されるDDDの大会等の準備に追われる御伽。
勿論、遊戯もM&Wの大会に引っ張り出されることもあれば、小遣い稼ぎに店番もする。

つまりは日にちを合わせるのが大変だったのだ。
それから、あーでもないこーでもない、とそれぞれなりのスケジュールを少しづつうまく合わせるのに数日要し、そしてその頃には既に狙っていた宿は予約が埋まり、部屋がなくなってしまっていた。

そんなこんなであわやお流れに、となりかければ気も抜けるし、多少拗ねたくもなるだろう。
そんな折りだ。くたらくたらしている息子を見かねた遊戯の母が、知人のやってるという民宿に連絡を取ってくれた。
いわく、海水浴の時期も過ぎた事だし、丁度キャンセルが掛かって部屋が空いている、とのこと。
小さな町で、今は祭りくらいしかないけれどそれでも良ければ、と。
海水浴、はちょっとばかり残念だけど、単に皆でどこかへ行きたいというのがメイン。
一旦は諦めざるを得なかったのが、ひょんな事から復活、だ。それがこんなラッキーな事ならなおさら。
かくして、遊戯はママさんを拝み倒して、短い、夏のスペシャルイベントをGETしたわけだった。



「ボクたちが一番のりかな?」
『どうだろうな、場所的には近い方だが、こういう時は・・・』

「おーい、遊戯ィ~!」

「あ」
『ほら、な』

「城之内くん、おはよー!」




作品名:ハミングバード 作家名:みとなんこ@紺