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ドリーム・パーク/1~オープン戦編~

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ルーキーたち



「なあ、どう思う」
「何がだよ」
「お前は暢気だよなァ……決まってるだろ、結局、オープン戦始まってからほとんど負けてんだぜ、俺たち」
「いつものことじゃねえか」
 なんでもないようにそう言って茶を啜るゾロに、ウソップは深い深いため息を吐いた。
「もうちょっと焦れよなァ。折角チャンスもらったって、これじゃまた2軍に逆戻りだ」
「そうなりゃ、てめえの実力が足りなかったってこった」
「ほんと、暢気なもんだぜ。実際、一番ヤバいのってお前じゃねえのかよ」
 んああ、と、ゾロの聞いているのか聞いていないのかわからない(ウソップは確実に後者だと思った)生返事は、当の本人がボリボリと漬物を噛む音でかき消された。ゾロとウソップは、今季からスタメンに抜擢された元2軍。立場は同じだというのに、この余裕はいったいなんなのだ。
「こいつに何言っても無駄だぜ、ウソップ。人の言うことなんざ聞きゃしねえんだ」
 ひょい、とキッチンカウンターから顔を覗かせたのは、サンジ。こっちは元々1軍ではあったがベンチウォーマーが長かったという点で、やはり立場は同じようなものか。
「だけどよう……ていうかなんでお前ここにいんの? 寮出たんじゃなかったのかよ」
「ああ? 負けっぱなしのてめえらに精を付けてやろうと直々に料理の腕をだな」
「俺らが負けっぱなしならてめえだって負けっぱなしだろ」
「クソマリモ! 誰のせいだと思ってやがんだ! てめえ昨日も俺の渾身の送球を……」
「あー、もう、落ち着けってば!」
 オープン戦は連敗、チームのスラッガーと守備の要は毎日のように喧嘩。ウソップでなくたって胃は痛む。
 要するに、ウソップも、ゾロもサンジも、今季からの球団改革の恩恵を受けてスタメンに抜擢されたはいいが、当然これまでの実績などほとんど無に等しい。いつまたスタメンを外されるかわからないし、2軍に逆戻りする可能性だってありすぎるほどにある。それに、こうしてチャンスをもらった以上は監督の期待にもできる限り応えたい。
 そう考えるのは当然だろうと思いつつ、目の前の2人のやり取りを見ていると、どうも不安ばかりが沸き起こってくるのだ。
(俺の肝が小さいだけなのか……!?)
 ネガティブに襲われながら、あああ、とウソップは粗末な食堂の天井を仰いだ。
「まあまあ、そう焦んなよ、お前ら」
「エース!」
 ――救いの神、というわけでは決してないが、少なくとも悪魔ではない。ニヤリと食えない笑みを浮かべながらテーブルに近づいてくるのは、ポートガス・D・エース。チームメイトとなってから随分経つが、ウソップは未だにこの男と顔を合わせると緊張する。
「オープン戦ってのは、要するに調整期間だ。勝ちすぎると良くねえとも言うしな。それに、オープン戦で負け続けたチームが開幕から連勝して挙句優勝、そんなことが実際に起こり得るのがプロ野球だ」
「さすがベテラン。言うことに深みがあるな」
「ハハ、ベテランって。俺はまだ若いっての」
 そんな冗談を言い合えるサンジが信じられない程度には、ウソップにとってエースは遠い存在だ。何しろエースは、あの強豪チーム、GLホワイトベアーズで昨年までスタメン入りしていた男なのだから。しかも一昨年にはベストナイン入りも果たしていたはずだ。そんな男がなぜ弱小と名高いストローハッツにFA移籍してきたのか、更に金など余るほど持っているだろうにこのボロ独身寮『インペルダウン』に入っているのか、そのわけのわからなさからしてまず気味が悪い。
「でもさァ、それって所詮ジンクスみたいなもんだろ? 勝つに越したことはねえと思うがな」
「んー、まあそうっちゃそうなんだけどな。でも、俺は案外、このチームはいい線行ってるんじゃねえかと思う」
「ファーストがエラー大王なのにか?」
「てめっ、グル眉、言わせておけば……」
「ハハハ。ま、問題も多いけどよ、その分長所も多いとは思わねえか? ゾロは、当たりゃ確実に飛ばせるんだ」
「当たりゃあ、な」
「んだとコラ!」
 ――結局、争いがでかくなっているような気がする。
 ハッハッハ、と、ゾロとはまた別の暢気さで笑いながら厨房の余りものを摘んでいるエースを見上げ、ウソップはまたひとつため息を吐いた。
 精神が限界に達し、思わず脳裏に浮かぶのは、開幕戦見に行きますね、と言ってくれたあの子の笑顔だ。勝ちたい。なんとしても勝ちたい。結局下心じゃねえかよ、と突っ込まれても開き直れる自信があるくらい、あの子のために勝ちたい。
「……なあ、プロ野球チームに必要な条件って、なんだと思う?」
 ギャーギャーと喚き散らすゾロとサンジ、俯いてグルグルしているウソップに向かって、突如エースが問うた。
 その口調は、陽気で気楽ないつもどおりのエースのものだ。しかし、その影に見える炎は、なんだ。それはもしかして、闘志というものだろうか。
 ごくり、と、ウソップは息を呑んだ。
「あー……、勝つこと、か?」
「いや、もっと根本的なこと」
「良いプレーをすること」
「ま、それもそうなんだけど……」
 んー、とエースは笑顔のまま唸り、ゾロ、サンジ、ウソップは思わず顔を見合わせ首を傾げた。エースの言う、プロ野球チームに必要な条件とは? ――それがわかっていないから、勝てないのか。
「ま、深く考えんなって。これって俺の持論だしさ。ゆっくり考えろよ」
「んなこと言われても、いったん考え出したら気になんだろー」
 ギャー、とサンジが頭を掻く。ゾロはゾロで腕組みしながらむっつりと考え込み、そういえばいつのまにか喧嘩が収まっているが、もしかしてこれはエースの計算だろうか。
 思わずエースの顔をまじまじと見つめれば、その笑顔が一段と悪戯っぽくなったような気がした。
「さて……俺そろそろ行かなきゃならねえんだ。ルフィの練習に付き合う約束しててな」
「後で俺たちも行く」
 だろ、とゾロに目配せされ、別に事前にそう決めていたわけでもないのだが、サンジもウソップも頷いた。結局、勝ちたいのは3人とも同じってわけか。
「そりゃ大歓迎だ」
「ちょ、ちょ、その前にヒントだけ言ってけよ」
「ヒントォ?」
 服の裾を引っ張るサンジに珍しく眉間に皺を寄せ、ううん、とエースが考え込む。
「……俺たちが、昔からしてきたこと、かなあ」
 3人分の「はあ?」が、実に間抜けっぽく食堂に響いた。
「じゃ、また後でな!」
「あ、ちょっ」
 3人が引き止める間もなく、エースは彼の外野での好手を思わせる軽やかさで去って行ってしまった。
「つくづく不思議な奴だよなァ」
「同感」
 呆然と顔を見合わせた後、競争でもしているかのように一気に残りのメシをかっ込んだ。