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ドリーム・パーク/1~オープン戦編~

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選手会長



「頼む、お前から監督を説得してくれよ!」
 コーラの入ったグラスを傾けながら、フランキーは目の前にずらりと並んだ旋毛を見回した。
(バギー、ハチ、フルボディにジャンゴ……まあ、予想はしてたがな)
 なァに、笑っちゃう……。彼らの周りを取り囲んだ女たちが、キャハハと笑う。キャバクラの、シックに見せかけた下卑た照明。フランキーも別に女嫌いというわけではないが、こういう場所はいまひとつ性に合わない。
「シャチョーさん、おかわりは?」
「ああ、コーラを頼む」
「ええ、お酒飲もうよォ」
「てめえらだけで適当に頼みな」
「やったァ!」
 目の前で頭を下げている面々の共通項は、ひとつ。今季からの大幅改革で2軍落ちした、元スタメンの連中だ。
「まあアレだ、てめえら顔上げろ」
「じゃあ……」
「俺からすることは、何もねえ」
「ちょ、ちょっと待ってくれよ! 選手会長のあんたが口ぞえしてくれれば、俺らもまた……」
「おいおい、俺たちはプロだぜ。上がるなら、てめえの実力を見せるしかねえ、そうだろ?」
 そう言いながらも、フランキーは頭の中でここ数日のスポーツ誌の記事を思い出していた。補強失敗、権力の暴走、貧窮した球団の内情、おまけに球団社長が不倫中だとかいう根も葉もない記事もあったか。
 ストローハッツへの風当たりは、強くなる一方だ。それが外からだけでないことは、今自分の目の前にいる連中の目が物語っている。
(改革ってのは、そんなもんなんだろうが……)
「だがよ、あんただって思わねえか? 改革って言葉の響きはいいが、実際、チームは連敗してんだ。若手台頭? そりゃ結構だが、俺たちには球団側がケチって契約金の安く済む若手連中を起用したようにしか見えねえぜ」
「で、実力あるお前らが下げられた、と? ……なあ、正直に答えろよ。お前ら、自分がスタメンに残ってたとしたら、どれだけ勝てたと思う」
「それは……」
 威勢の良かったバギーが口ごもり、他の連中と目を見交わした。
 ――そうだ。それが、実情。
 フランキーには、チーム作りのなんたるかなどわからない。彼はただ、4番として、選手会長として、できることをする。それがプロ野球選手としてあるべき姿だと今までやってきたし、それはこれからも変わらない。
 そして、チームが“変わる”ことを望んでいるなら、フランキーも全力でその駒として働く。それが、彼の考える“プロ”としての在り方だ。
「今回の社長交代騒動でもわかっただろ。ストローハッツが立たされてんのは、まぎれもねえ、窮地さ。プロ野球チームはただ勝てばいいってもんじゃねえ、それはもっともだ。しかし俺たちの現状は、それ以前の問題じゃあねえのか? チームの人気は低迷、観客動員数も下がり続けるばかりだ。俺たちは、変わるんだ。変わらなきゃならねえのさ。今季の大幅改革が、そのために正しい手段かなんて、誰にもわかりゃしねえよ。ただ、一歩目は踏み出してる。これからもがむしゃらに俺たちは進む。お前たちも進め。……俺から言えるのはそれだけだ」
 それだけ言うと、グラスに残っていたコーラを一気に煽りフランキーは立ち上がった。
「金は置いてく。後はお前らだけで好きにやれよ」
「待てよ!」
 フルボディ。昨年の先発投手。成績は中の下――それでもストローハッツ内ではそこそこというレベルだった。その分、今回の降格に納得いかないものも大きいのだろう。
「……あんたはいいぜ、俺たちと違って1軍残留だ。契約金も変更ナシ、チームでトップ。そりゃ、現状に文句はねえだろうぜ。あんたは何も変わってねえだろう! だからそんなことが言えるんじゃねえのか」
「てめえが本心からそう思ってんなら、そう思ってりゃいい。だが他にすべきことがあんだろ」
「待てよ、待てって!」
 女たちの哄笑に混じって聞こえていたフランキーを呼び止める声も、やがては萎むようにして消えた。
(そうだ、誰にもわかりゃしねえんだ、進んでる道が正しいかなんぞ)
 だからこそ、それを見極められるところまでひたすら進むしかないのだ。

 実は数日前の試合後、フランキーは彼らと同じ疑問を監督に問いかけたことがあった。おぼつかない若手たち。オープン戦とは言え勝てない現状。果たして自分たちの進む道は正しいのか?
 そして返ってきたのが、先ほどの答えだ。はじめは、その答えが答えとも思えず、ただモヤモヤとした闇だけが目の前にあった。が――
 その日、自宅マンションへと帰る道すがら、ふとフランキーは思い立ち、独身寮に併設されている屋内練習場へと足を向けた。『インペルダウン』、通称監獄。プロ入り1年目の選手は問答無用で入寮を義務付けられている、ストローハッツの寮だ。
 フランキーも3年目まではここに入っていた。そして、同期の仲間たちと共に、あの練習場でがむしゃらにバットを振ったものだ。
 どうしてそこに行こうと思ったのかは、自分でもわからなかった。何かが見つけられると思ったのか。それとも、ただ単に懐かしかったのか。
 近くまで行くと、練習場の照明が付いていることに気が付いた。
(……? スタメン外れた連中が練習してんのか? こんな遅くまで……)
 果たして。
 そこにいたのは、つい先ほどまで、敗戦に肩を落としていた連中ではないか。
 ルフィ、ゾロ、ウソップ、寮を出たはずのサンジもいる。それに、試合には出なかったが、ローとキッド。おまけにエースまで。
 ダウンなんて生ぬるいものじゃない。今季のキャンプは例年にないレベルのきつさだったが、それを思い起こさせるようなそんな風景が、目の前に広がっていた。
「おいゾロ! てめえなんであんな簡単な球が捕れねえんだよ!」
「うるせえな、てめえこそちゃんと投げろ!」
「投げてんだろうが! いい加減にしろよ、いいか、俺の送球はゴールデングラブも夢じゃないレベルの……」
「おい2人とも! 喧嘩してる暇があんならそこどいてろ!」
「ほざけ! いいからさっさと続けようぜ、体力は有り余ってんだ!」

 結局フランキーは無言でその場を立ち去ったが、ストンと、あの監督の答えが自分の腹の中に落ちてくるような、そんな気持ちがしたのである。