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小説PSU EP1「還らざる半世紀の終りに」 第1章

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universe03 不吉な予感


 軽快な音を立てて、自動ドアが開く。
「おはようございます、ランディさん」
 受付に立っていた女性が、入ってきた人影に気づいて声をかけた。彼は軽く手をあげて答える。
「おはようさん」
 ランディはビーストの青年だった。どちらかといえば幼さを残しつつも男らしい顔つきで、深い緑髪を短めにまとめている。髪からはビーストらしい体毛に覆われた耳が覗いていた。首周りにファーをあしらったジャケットを羽織っているが、袖がないため太い腕が惜しげもなくさらされている。そこから覗く筋肉は鍛え上げられており、彼の筋力の高さを物語っていた。
「いつもお疲れさん、ミーナ」
 言いながらガーディアン・ライセンス――カード型の身分証明書のようなものだ――を手渡し、手慣れた手つきでミーナはカードを認証する。そう、このランディという男も「ガーディアンズ」の一員だった。
「認証完了。これで任務受理となります。頑張ってください」
「ありがとう」
 元々ガーディアンズとは500年の戦争が終わった後に政府の資金援助によって設立された公共法人、つまり特殊会社である。戦乱直後の不穏な勢力が各地に残存する混乱した世の中で、太陽系警察だけでは治安を維持できなかったため、それを補助し様々な危険から一般人を護ることを目的として活動していた。最初は小さな警護組織だったが、やがて彼らは同時期に設立された同盟軍より発展を遂げた。それはもちろん、「圧倒的武力をもって鎮圧を行う」同盟軍より、民間に支持されたという理由もある。
 とにかく、気付けばガーディアンズは「ガーディアンズ・コロニー」という宇宙空間に作られた人工の居住地を設け、その自治権を得るまでに成長していた。ついこの間も、「タルカス三惑星同盟」――つまり500年にも渡る不毛な戦争を終わらせた和平締結――の締結100周年を祝う記念式典があり、そこでガーディアンズの代表である、第17代総裁オーベル・ダルガンが祝辞を述べたばかりである。
 そんなガーディアンたちにも立場はいろいろあるが、彼のように実際に前線で戦いを行ったり危険を伴う任務に就くのが、機動警護部に所属する者たちだった。
「皆さん、ミーティングルームにお集まりですよ」
「お、早いな。みんな暇なのか?」
 カードを受け取りながらランディは聞く。
「いえ……その、集合時間は15分前です」
「……あれ? 俺が遅れてるのか」
 ミーナが苦笑しながら、頷いた。
「勘違いしてた。ありがとさん」
言ってランディは廊下を歩きだした。
 ここは、ガーディアンズ・コロニーの5階に存在する、ガーディアンズ本部。各惑星に存在する支部を統括するガーディアンズの総本山であり、総督自らが三惑星を見守る場所でもある。また、コロニーの1〜4階はクライズ・シティと呼ばれ、ガーディアンズの居住区や商業地区も兼ねており、生活の場として使われている。
「お疲れっす」
 ミーティングルームのドアをくぐりながら右手を上げて、ランディは悪びれず言う。
「おはよう。今日は早いわね、ランディ」
 相手も慣れたものだ。テーブルを挟んで向こう側に座っている、ランディよりも明るい緑髪の女性が書類に目を落としたままで答えた。隣には紫の髪のニューマン女性が座っているが、彼女はきょろきょろ辺りを見渡しており、遅刻の話題には興味が無いらしい。
「ああ、最近よく眠れてね。こうも毎日狩り出されちまってはな」
 言いながらランディは入り口近くの椅子を引き出し、どかりと腰をおろした。長身でなおかつ鍛えられた筋肉を持つ彼の体重に、華奢な椅子が悲鳴をあげた。
「確かに、最近何かと事件がよく起きるわね。同盟締結100周年記念式典の最中に、謎の宇宙生命体『SEED』が襲来するしね」
「アルファ先生も大変だな」
「ええ、お蔭様で分析や情報整理に大忙しだわ」
 アルファはやっと、書類から目を上げた。後頭部でひとつにまとめた長い髪が揺れて、ふわっと空気が揺れた。
 彼女はどちらかといえば幼い顔立ちで、小さな長方形の眼鏡が似合う女性だった。上半身のラインが出る上着に、裾の広いズボン。その組み合わせが、彼女をよりタイトに見せている。上着の裾から時折覗く腹部が、彼女をまたセクシーに見せていた。
 機動警護部に籍を置いている彼女だったが、どちらかと言えば情報を管理したり新人の実戦訓練に立ち会う事が多い。決して実戦が苦手なわけではないが、その穏やかな性格がそうさせるのだろうか。そんなわけで、いつしか彼女は周りから"先生"と呼ばれるようになったのである。
「……っと、彼女を紹介しておくわね」
 言ってアルファは隣のニューマンを促す。
「今回の任務に同行してもらう、"VALKYRIE"よ」
「よろしくー」
 彼女は微笑む。濃紫のロングヘアーに細身のラインを強調したニューデイズの服で、切れ長の瞳は一見すると威圧感を覚えそうだが、その屈託のない笑顔は彼女の無邪気な柔らかさを表していた。
「ヴァ……ルキ……なんだって? 珍しい名前だな」
「グラールには無い言語体系の名前だから」
 戸惑うランディに、アルファが説明する。
「"ヴァルキリー"というのは、違う太陽系の神話に出てくる、終焉の戦士をいざなう女神の名前よ。それを彼女はコードネームにしているの」
「……なあ、難しくて覚えらんねぇから、"ヴァル"でいいか?」
 アルファの説明を理解できなかったらしいランディは、苦虫を潰したような顔で提案する。
「うん、いいよ。よろしく、ランディ」
「ああ、こちらこそよろしくな。ところで先生」
 差し出された手を握り返してから、ランディはアルファに向き直った。
「で、今回のミッションの内容は?」
「はい、資料。詳しくは端末に送るけど、今はこれを見て」
 言いながらアルファは数十枚の紙を渡す。文字の多い紙束に、ランディが明らかに拒絶反応の表情で受け取った。
「昨晩、オウトク山の麓で死体が見つかったの」
 場の空気が、張り詰めた。
 オウトク山といえば、このニューデイズで広く信仰されているグラール教の聖地である。そんな場所で、死体というような血生臭い話は似合わない。
「第一発見者はグラール教団の僧兵よ。夜の見回りで見つけたらしいわ。死体は若いビースト男性が二人とキャスト女性が一人。目立った外傷は無いのよ。けど、単なる行き倒れにしてはおかしいでしょう? 街からそれほど遠いわけでもないし、心中とは思えないし」
「で、そもそもなんで、そんな話がうちに来たんだ?」
「そう、そこなのよ……何者かに襲われたわけでもなく、SEED事件が絡むわけでもなく。なのになぜ、それがガーディアンズが出動する事になったのか……」
「まわりくどいぞ、先生。一体なにが……」
「あっ」
 たまりかねて口を開いたランディを遮って、資料を見ていたヴァルキリーが口を開いた。
「死体から検出されたのが……」
 一瞬空気が凍った。三人の呼吸だけが、室内に響く。
「そう」
 アルファはゆっくりと、噛みしめるように語りだした。
「死体から、A・フォトンが検出されたのよ」