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小説PSU EP1「還らざる半世紀の終りに」 第1章

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universe06 嵐の前の宴


 「A・フォトン」……正式には「アドバンスド・フォトン」と呼ばれるもの。
 通常のフォトンと違い、フォトンに非常に高度な精製を施すことでA・フォトン結晶は生み出される。これが崩壊する際に発生するエネルギーは、通常のエネルギーよりも高出力で安定しているため様々な技術に応用されている。
 また、A・フォトン結晶には空間を制御するという特性があり、ナノトランサーにも利用されている技術である。
「……ということ」
 アルファの説明に、一同は押し黙った。
「死体からA・フォトンが検出って……意味が分からんね」
 ランディが素直な感想を述べる。
「何かの拍子にナノトランサーが壊れた、とかじゃないだろうな」
「残念ながら。彼らは着衣以外の所持品は何も持っていなかったし、体内にA・フォトンが入るとは考えられないわ」
 再度沈黙が訪れた。三人ともとんと見当がつかないらしく、言葉を繋ぐことができない。
「ま、とりあえず……遺体と現場を調べておきたい所だな」
 天井を見上げていたランディが、呟くように提案した。
「遺体はさすがにもう無理ね。詳細な立体データはスキャンしてあるから、それを見て。現地は……今すぐ出かける?」
 二人がうなずいた。
「そう言うと思ってニューデイズ行きのシャトルは手配済みよ。頑張ってきてね」
「頑張ってきてね、って……先生は行かねぇのかよ?」
「残念ながら、これから研修なのよ。サバイバルにおける調理法を新人に教えなきゃ」
 ランディが両手を広げて首をかしげ、ヴァルキリーに苦笑で笑いかけた。
「まったく最近のガーディアンズは、人使いが荒いぜ」

「この星に来るのは久しぶりだな」
 二人がシャトルを降りてニューデイズに降り立った所で、ランディが独りごちた。
 ニューデイズは、グラール太陽系の第二惑星であり、かつてフォトン研究を進めるために「デザインヒューマン計画」により生み出された、ニューマンが統治する星だ。また、グラール太陽系最大の宗教であるグラール教を国教とする宗教国家でもある。
「風が生暖かいな」
 ランディは素直な感想を口に出した。自然が多いせいか、陽も落ちかけているというのにこの星は暖かい。無言で頷くヴァルキリーの長い髪を、風が弄んでくしゃくしゃにする。
「さてと。とりあえず支部に向かうか」
「うん」
 ガーディアンズ・オウトク支部。町の真ん中を川が流れる首都・オウトクシティの傍らに、支部はある。
 けして大きい規模ではなく、ここを拠点としているガーディアンもせいぜい百人前後といった所ではあるが、有事の際は立派な拠点となるため、地下シェルターや大量の食糧が蓄えられていた。
「グラールの未来を守る、ガーディアンズ・オウトク支部へようこそ」
 受付のレイナが声をかけた。
「機動警護部所属のランディだ。任務を遂行しに来た」
「はい。しばらくお待ちください……確認しました」
 ガーディアン・ライセンスを受け取りながら、ランディは聞く。
「で、何か変化は?」
「特に情報は入って来ていませんね」
「そっか。……すぐ行くか?」
 ランディは後ろのヴァルキリーに振り向きながら、聞いた。
「えー、明日にしようよ。そもそも夜目きかないでしょ、ランディ」
「……だな」
 ランディは苦笑する。ビーストの身体能力であれば、他の種族よりはよく見えるはずではある。だが、キャストの暗視カメラやニューマンたちのフォトン知覚にはかなわない。何より、赤外線ゴーグルをつけながらの探し物なんて不毛以外の何物でもないと思えた。
「明朝までに野外用の装備を出しといてくれ。消耗品は一週間分で頼む」
「はい」
 レイナに明日の準備を依頼してから、二人は支部を後にした。
「飯でも行くか?」
「うん。肉食いたい、肉!」
 ランディは少し意外そうな顔をした。この細っこい体で、肉食主義者とは思えないからだ。
「量は?」
 恐る恐る、ランディは聞いた。ヴァルキリーが迷わず答える。
「多ければ多いほど」
「はっはっは! オーライオーライ。いい店知ってんだ、案内するぜ」

 店内は、木材の質感を生かした自然な装飾で、全てが統一されていた。テーブルや椅子や壁はもちろん、フォークやナイフまでが木材の手作り感を生かしたものである。入り口の上に掲げられた看板には、「下町の導き亭」とあった。その名前の通り、中心の繁華街からはやや離れた場所にあり「知る人ぞ知る、通の店」という雰囲気を醸し出していた。
 テーブルは、1.5メートル四方はあるだろうか。二人席には充分すぎるほどの大きさである。その上を、皿が埋め尽くしていた。
 コルトバ――主にパルムに生息する、体長1メートルほどの四足獣――1体を丸ごと使い、香草をふんだんに使った鍋。鳥は体長30センチはあるものを丸焼きに。野菜はボウルというよりバケツのようなサイズ……。
「おおっ……!」
 ヴァルキリーの目が、トランペットを見つめる少年のように輝いている。
「味についても文句なしだ。まさか、好き嫌いとかないよな?」
「もちろん! いただきまーす!!」
 それからは、壮絶な光景が繰り広げられた。体格のいいビースト青年がよく食べるのは当然として、華奢なニューマン女性が同じような勢いでたいらげていくのである。あまりの勢いに、近くの席の客たちが丸い目で見ている。
「いい店だろ?」
 一息ついてランディが口を開いた。
「ニューデイズに来る時は必ず寄ってる」
「うん、満腹! デザートは? まだ?」
 無邪気に聞くヴァルキリーにランディは苦笑しながら、店員を読んで注文を伝えた。
「おや、ランディ! 久しぶりだねぇ」
「おー、おっかさん」
 声に振り向くと、恰幅のいいヒューマン女性が酒瓶とグラスを手に立っていた。酒瓶とグラスを持った姿がいやに似合っており、まさしく「おっかさん」という形容がふさわしい。
「死んだかと思ってたよ。ほれ、サービスだ」
 テーブルにどん、と「星露酒」というラベルの酒瓶とグラスが置かれた。ニューディズ産の薬草と果実をふんだんに使い、じっくり仕上げた酒だ。
「おおー! ありがてぇ」
「で、なんだい、あんたも隅に置けないねぇ。綺麗な娘さんなんか連れてきちゃって」
 彼女はランディの耳元で言いながら、親指でヴァルキリーを指している。
「そんなんじゃねぇよ。……っと、ヴァル、紹介するよ。この店の主人のアリサだ。通称『おっかさん』」
 ヴァルキリーは軽く頭を下げた。
「はじめまして。ガーディアンのヴァルキリーです」
「ヴァル……キ……なんだって? "ヴァル"でいいかい?」
 思わず二人は吹き出した。
「お、おっかさん……俺と同じ事言ってやがる」
「あん? なんか問題あるのかい」
「ぷくく……ないない」
 ランディは笑いを堪えては吹き出す、ということを繰り返しながら三つのグラスに酒を満たす。
「まあ、乾杯しようぜ。何に乾杯する?」
「そりゃあんた、うちの店が繁盛するように、に決まってるだろ」
「これ以上繁盛したら、客がグラール教団より多くなるぜ」
「文句あるの? 誰のオゴリだい、これは」
「あーはいはい、おっかさんが正シイ、正シイデス」
 あきれ顔でランディは、両手を広げて適当に答える。