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ハーモニクス(7/18 青春カップ2発行本サンプル)

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1・亜風炉照美


宇宙人のふりをやめた、人間であるところの彼らと初めて会ったときのことだ。
待ち合わせ場所に指定していたファーストフード店で、テーブルを挟んで互いの斜め向かいに座っていた彼らを見た瞬間に、ふと「ツインズ」という言葉が頭をよぎった。彼らというのは、元エイリア学園の南雲晴矢と涼野風介だ。

僕はそのことを不思議に思った。彼らは一見して、似ても似つかない存在だったからだ。容姿も性質もまるで違うし、またその間に特に親しげな雰囲気があるわけでもなかった。それなのに、そのときの彼らの印象はとても似かよっていた。双子の兄弟かなにかのように。なぜなんだろう。

僕は少なくとも彼らが宇宙人だったとき、そんな印象は抱かなかったように思う。彼らはかつてそれぞれ、自分たちのチームを率いるチームキャプテンだった。それは、彼らがメンバーを引き抜いて混成チームを作ったときですら、変わらなかった。混成チームのキャプテンは南雲が務めていたが、チームメンバーが南雲派と涼野派にはっきりわかれていた様子を見るに、彼らは実質的にはどちらもキャプテンだったのだと思われた。別のチームを率いる、別の存在として。

席に近づいていった僕をみとめた彼らは、会話をとめてこちらを見やる。するとはじめに感じた不可思議な印象は霧散した。テーブルにたどりつき、先に飲み物を買ってきてもいいかなと問いかける頃には、彼らはすっかり個々の存在に戻っている。結局、それは気のせいだったのだろうと僕は思う。

「ごめんね、待たせてしまって。電車が途中で止まってしまってね、駅に着くのが少し遅くなったんだ」
 予定の時間より遅く着いたことを謝罪すると、南雲が軽く肩をすくめた。
「別にいいぜ。こっちも時間が押してるわけじゃない」
「そうだね。我々は、おおむね暇だから。いまは」

立ち上がり、席を奥にひとつずれた涼野の隣に座った僕は、彼らの視線を受けて話し始める。フットボールフロンティアインターナショナルの韓国チームメンバーを選抜する合宿へ参加をうながすために、僕はここへ彼らを呼び出したのだった。

FFIの開催が決定すると同時に、僕には韓国チームの監督から、正確には監督を介した韓国チームの代表候補の一人であるチェ・チャンスウという選手から誘いの声がかかった。きみの母国でもある我々のチームへ参加する意思はないか、参加する意思があるのなら、メンバーを決める選抜合宿へ来ないか、というものだ。僕は彼が僕の経歴を正確に調べあげてそう誘ってきたことにやや驚き、苦笑もした。

母国というものが、僕には二つある。ひとつは今現在住んでいる日本、もうひとつは海を挟んだ隣国、大韓民国だ。僕は生まれたときから小学校の低学年までを韓国で過ごし、それから父の仕事の都合で日本へと渡ってきた。父は韓国人で、母は日本の人だ。日本での暮らしの方が記憶には新しいけれど、どちらをより母国と呼ぶかは、少し難しい。僕の国籍は、現時点ではふたつ存在する。韓国のものと、日本のものと。重複してふたつの国籍をもっている状態だ。

僕はもともと韓国で生まれて韓国の国籍を付与されているけれど、両親はいずれ家族が日本で暮らす可能性も見越して、日本側に出生申告を出す際に、僕の日本国籍を保留にする申請を出した。だから僕は二十二歳まで、韓国側に所属するとすれば徴兵制の関係で十八歳までには、どちらかの国籍を離脱して、どちらかを選択する届けを出さなければならない。どちらを母国にするか、自分で選べということだ。とはいえ、両親はとうぶん日本から離れる予定がないので、自然と日本の国籍を持つことになるのだとは思う。

韓国チームへ、と誘われたときに、僕は念のため自分の国籍が二つの国にあることを話した。でもこの大会の規定ではそもそも、正式に国籍を置いている国のチームに参加する必要はないのだそうだ。つまり年齢規定にかなっていて参加意志さえあれば、誰でもどこの国の代表にでもなりえるということ。だから他に見込みのありそうな選手がいれば、独断でスカウトしてきてくれてかまわないとも言われた。彼らの言葉は、このタイトルを確実に獲ることが出来るという自信に満ちあふれていた。入念に下調べを行い、戦略をめぐらせて、世界に勝つつもりなのだ。おごりではない冷静な自信は好もしく、信頼に足りるものだった。

エイリア学園との試合で負った怪我がすでに完治していた僕は、その話しを受けた。考えてみれば、僕は久しく勝利していなかった。あのとき、円堂くんのチームに手を貸した際に怪我をしてしまったことを悔やんではいないと思ったけれど(それは、彼らに対してしたことの贖罪だとも思っていたから)、自分の力が足りずに引き起こされた結果については、大いに不満が残っていた。

それに韓国チームで大会に出場するということは、日本代表チームと序盤でぶつかるということでもある。公式試合で円堂くんたちと戦うことができるという機会が与えられたのだから、断るはずがない。日本代表のメンバーはこの時点でまだ決定してはいなかったが、円堂くんが候補にあがっていることは知っていた。彼は、必ずレギュラーメンバーに食い込んでくるはずだと確信していた。

電話で誘いを受ける旨をつたえてから、韓国か、と改めて思う。僕の第一の、または第二の母国。距離は近いのに、ずいぶん長いこと渡っていなかった。ここ数年は日本にこもってサッカーばかりで、たまの父の里帰りについて行くこともなくなっていたから。そこへサッカーのために帰って行くのは妙な感じだった。

日本から引っ張っていく戦力として、僕はすぐに最後に対戦したチーム、カオスのことを思い浮かべた。エイリア学園プロミネンスのバーンと、ダイヤモンドダストのガゼルが作った複合チームだ。彼らはじゅうぶんな実力を兼ね備えており、かつ日本代表の候補には挙げられていなかった。そして何より、円堂くんの率いる雷門との試合を決着前に中断されている。日本代表候補には、その試合を途中で中断したエイリア学園のグラン……基山ヒロトの名前もまた挙がっていた。実力を考えれば、彼もおそらく代表メンバーには残ると思われた。

選抜合宿へ参加しないか、と誘うと、背もたれから身を起こした南雲はやや険のある顔で笑った。涼野は目を伏せ、ストローの蛇腹になった部分を無意識に指先でこすっていた。一瞬だけ視線を絡ませた彼らは、口々にこたえる。

「グランたちとも当たる可能性があるっていうことか。面白そうじゃねーか」
「……ああ、確かに。悪くはない提案だ」

このあいだ呼び出しのために電話をかけたときにも感じたことだが、以前感じていた傲慢にも近い攻撃的な自尊心の匂いは、今の彼らからはあまりしなかった。相変わらず、態度は勝気だったけれども。ただ、勝利への強い欲求だけは確かに感じる。その欲求はいいなと思った。それは、技術力の高さだけでは得られない強さになりうるからだ。
僕は彼らの実力と同時に、彼らの対抗心もまた見込んでいた。FFIに韓国チームで出場するとすれば、日本代表チームとは予選の時点で戦う可能性が高いことが想像できたから、なおのことだ。