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リヲ(スランプ中)
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魔王と聖女

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むかしむかしの



むかしむかしの御伽噺。
自然の驚異になす術もなかった人々は、
一日一日を大切にいつ尽きるともしれな生活を送っていた。
ある日、そこに一人の男が現れた。
男は言った、
「俺が大地を沼にする止まぬ雨を止めてやろうか? 
俺が乾いた大地に雨をふらせてやろうか?」 
人々は男の戯言に縋った。


男が手を振るうと東の地を覆う厚い雲が晴れ、
西の地を枯れさせる陽を覆うように雨雲が現れた。
人々は歓喜して男を敬った。
男は言った、
「俺を敬わなくても良い。
代わりに数年に一度変わった贄を俺によこせ。
それが守られる限りは俺はお前たちを守ってやるよ」


男に捧げられる変わった生贄たち。
四肢のいずれが生まれつきないもの、
生まれつき精霊に祝福されたもの、
闇に支配された盲目のもの。
不治の病に苦しむもの。
人々が普通に生きるのに大変なものたちが生まれるたび、
神官はそれらの命を男に捧げた。


いつしか男は魔王と呼ばれるようになり、今もその約束は守られてきた。 
呪われた瞳を持つ聖女が贄に捧げられるまで。 
その後、魔王は生贄を欲さなくなったが、人々との約束は守り続けた。 
いつしか人々は聖女の命尽きるのを怯えるようになった。


聖女の命尽きればまた、
ただ懸命に生きている大切な我が子が生贄として奪われてしまうと母は泣いた。
しかしこの世界で生きていくためには魔王なくしては無理だと父も泣いた。
平穏のためだと神官は言った。 
すべては生まれながらにして呪われている我等の定め、受け入れるしかないのだ。


その世界の人々は古の神に呪われていた。 
ある民が言った、魔王に我々を呪う神の怨念を解いてもらえば良い。 
ある民が言った、この呪いは我々が二度と過ちを犯さないための戒めだ。 
誰かが言った、あの聖女は憎き神の子なのではないか?
でなければ我々をこうまで恐れ震えさせるだろうか?


魔王の加護がなくなるのを恐れた人々はまた一人、
聖女は邪神の使いなのだと声高に叫んだ。 
また誰かが言った、月の丘で聖女、いや魔女を目撃したと。 
神官は怒れる民を諭した、
聖女失くしては元に戻るどころか魔王を荒ぶらせるだけでしかない。
民は一人一人、静かになった。


その夜、神官は民の迷える心に許しを得るため魔王に謁見を申し出た。 
魔王よ、民はいつしか尽きるだろう聖女の命を思い心を痛めております。
聖女に貴方様のような永遠をお与えください!
でなければ古の神の呪いを慰めてください・・・。


魔王は考える。
あの無欲な聖女は果たして永遠を受け取るだろうか?いいや聞くまでもない。 
もとより興味のなかった古の神などどうでもいいのだが、
魔王は少しでも聖女に向けられる刃が減るようにと古の神の眠る地へと向かう・・・。


大地の奥の奥深く、赤く光る海よりも深い底へと魔王は難なく降り立った。 
そこで魔王は神と対峙する。
古の時より暇つぶしになってきた人々を呪う古の神、昔の世界の支配者、母なる命。


傷ついた彼女を殺そうと思えばいつでも殺せるだろう。
しかし・・・魔王は考える。 
聖女ならばどうするか? 
殺す理由がないと、聖女ならば傷ついた母なる命に手を差し伸べれるだろう、と。
それがなんなのかも気にすることなく。
敵意を向けるものであったとしても・・・。


それならば魔王が選ぶのはただひとつ。
傷つき消え逝きそうな命に祝福を。  

むかしむかし 世界を支配していた魔王が滅び行く世界を癒した話。
とうとう魔王は戻ってこなかった。
しかし人々を蝕む呪いは跡形もなく消え、自然が牙を向けることもなくなった。


聖女は待っていた。 
人々が魔王を忘れても聖女はひたすらに待っていた。 
呪われた瞳は今や幸運の象徴と呼ばれるようになった・・・。 
聖女は一人月の丘で魔王の帰りを待っていた。


ある日、傷ついた男が一人、月の丘で倒れていた。
聖女はかつて魔王に無理矢理教えられた薬草でその男の傷を癒した。 
わずらわしいと思ったこともあったが今ではそのことに感謝しよう。 
なぜならばまたお前と出会えた。
お前は知っているか?お前なくしても作物は実るようになったのだぞ。


目を覚ました魔王にはもう魔王としての力は残っていなく、
ただその魅惑の王と呼ばれた美しい容姿と声が、
おぼろげにしか残らなかった知識があるだけ。 
それでも聖女は良かった。
魔王に求めたのは魔王と呼ばれているだけのただの一人の男なのだから。


ぼろぼろの不老でも不死でもなくなった魔王は聖女に呟く。 
・・・なにか欲しいものはあるか?我が聖女よ・・・。 
力のない魔王に聖女ははっきりと答える。 
いつも言っていたろう?最初から欲しいのはお前だけだよ・・・。


命尽きるその日まで二人支えあい懸命に生きたある男と聖女の御伽噺。 
その世界には今はごく自然に雨も降れば日も差す世界。 
人々への信頼を失った母なる命を救ったのは一人の魔王。
その魔王の心を潤わせたのは一人の聖女。 
聖女のからっぽの心に光を注いだのは・・・魔王と呼ばれていただけの男。


作品名:魔王と聖女 作家名:リヲ(スランプ中)