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APHログまとめ(朝受け中心)

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間抜けなピロートーク(事後注意・フランシスとアーサー)



 はあ、とどちらともなく熱い息を吐き出す。白い肌はその下の毛細血管を透かしており、息の上がった体は火照っていた。
 赤身の増した肌の上、白く粘つくそれを混ぜながら、癖毛の男が面白そうに呟いた。

「随分溜まってたんだね、坊ちゃん」

 腹を撫でられる不快感を隠しもせず、一方の男が口を開いた。

「お前だって人の腹にぶちまけただろ、溜まってんのはそっちじゃねーの」

 ハッと相手を嘲笑する調子で、アーサーは己の腹を撫で続けるフランシスの手首を掴んだ。
 欲を吐き出すだけの行為に似つかわしくない、フランシスの手付き。愛撫とするには幼過ぎ、まるで子供が珍しいものを弄るような手付きだった。
 アーサーの腹部には己が吐き出した白濁と、わざわざ相手が外で吐き出した白濁が混合されていた。
 後々掻き出す手間を考えれば、外に出してもらった方が遥かに処理はしやすい。ただでさえ負担の掛かる女役に徹しているアーサーには、情事の後に処理をする気力は残されていない。
 己にのし掛かる男に責任を取らせて全て任せてもいいが、そうするとこの男は必ず余計なことをするのだ。もう無理だ、とこちらが訴えても、処理の合間に少なからずもう1ラウンド開始される。
 それに流され快楽を貪るアーサー自身に、まるきり責任がない訳ではない。嫌だと明確な拒絶の意志を示せば、相手は行為を中断するのは分かっている。分かっていながら強く拒絶できないアーサーもまた、欲望に忠実な一個人に過ぎないのだ。
 掴んだままの手首を引き寄せ、口元に彼の指先を置く。アーサーはそのまま、赤い舌を覗かせ指先の白を舐め取った。眉間に皺が寄る。

「……マズ」
「ヤってる時は美味しそうに飲むくせに、終わった途端にそれはどーよ」

 あーあ、と呆れた様子を隠しもせずにフランシスが言った。アーサーの深緑が彼を射抜く。力強い瞳すら、フランシスは軽く肩を竦めてやり過ごした。
 フランシスはアーサーの手を振り解くことなく、逆に指を彼の口へと押し込んだ。予想できたはずの行動が自分の身に降り懸かり、面白くないとアーサーは顔を顰めた。可能性はあったはずなのに、それに気付かなかった。失念していたことがたまらなく悔しい。
 己の口内に押し込まれた指を、苛立ちそのままに噛み切ってやろうかと思った。
 目は口よりも物を言う、とよく言われるが、アーサーが何も言わずともフランシスはその感情を読み取ったらしい。深緑を覗き込んだ淡青が、にんまりと笑った。

「噛むなよー」
「噛まねーよ」

 指を含んだまま喋ったので、実際のアーサーの声は不明瞭だった。しかし意味は十分相手に伝わったらしく、フランシスは空いている手でアーサーの髪を撫でた。手つきは優しく、それだけで彼の機嫌が平生よりも良いことが分かる。
 逆にアーサーは、気に食わない相手に自分の感情を読み取られ、苛立ちが一層逆立つ。尊大さに真意を隠すのは得意だと思っているが、攻撃的な面だけは昔から隠し切れない。
 敵意も殺意も、隠す術など持ち合わせていなかった。それらは大きく膨らませ、相手を威嚇することにしか使ってこなかったからだ。面に表してこそ、これらは初めて有用性を示せると思っている。
 読み取らせようと思っている感情ならば、読み取られたことはむしろ本意なのではないだろうか。ふとその事実に気付いてしまえば、ならば自分のこの苛立ちは何に起因するのかと思案する。
 かちりと深緑と淡青がぶつかった。
 鋭さを増す深緑と、それを溶かすかのように緩く微笑む淡青。

「いッ……ちょっ、お前……! さっき『噛まない』って言ったのはどの口だよ!」
「下の口じゃないことは確かだな」
「仮にも紳士を名乗る国の言う言葉じゃないって、それ」

 甘噛み程度のつもりでフランシスの指に歯を立てたのだが、予想外にも深く歯を突き立ててしまったらしい。フランシスの端麗な顔が痛みで歪んだ。
 いい気味だ、と思いつつ、先程噛んだばかりの箇所にアーサーは舌を這わせた。舌先に僅かに鉄の味がする。今更ながら、噛み過ぎたと知った。気付きにくい微かな鉄の味が分かったのは、先程まで別の苦い白濁を舐め取っていたからだろうか。
 そこから二人の間に会話はなかった。
 アーサーはフランシスの傷口を舐め、フランシスはされるがまま。伏し目がちな深緑は他の行為を連想される。それまで無音だった空間に、フランシスの唾を飲み込む音がやけに大きく響いた。
 ん、と小さく声を上げてアーサーが咥えていた指を離した。唾液でてらてらと光る指先に、血は見受けられない。傷口は、他の部分よりも僅かに赤くなっている程度で、これ以上血が溢れることはないようだ。

「セーヌ川、涸れてたりしてな」
「は?」
「俺がお前の血を飲んだから」
「……ごめんアーサー、こういう大人の夜に不思議国家っぷりを発揮しないで」

 心底訳が分からない、とフランシスは眉をハの字にした。アーサーはアーサーなりの持論で発言したので、逆にフランシスの反応の方が理解できない。
 せっかく血を止めてやったというのに、相手は感謝一つ返してこない。おまけに自分の言い分が分からない、とまで告げる始末。
 アーサーはいつものように相手を罵倒してやろうかと思った。相手を罵ることは簡単だが、それでは子供と同じだ。自分の言っていることを理解してもらえない、受け入れてもらえないから癇癪を起こす。
 アーサーは自身を落ち着けようと深呼吸を一回、二回。自分は気が遠くなるほど生きてきた“国”で、その年月に見合うくらいには老成しているはずだ。老成、よりは達観だろうか。アーサーは自分が、ひいては国が老いている──国が老いるということは、老大国であると名乗るようなものではないか──などとは思いたくなかった。だからやはり、己の精神の成熟は達観が適当だろう。
 年月に見合うくらいには達観した人生観をもつ自分が、大人同士が、癇癪を起こしてどうする。まして相手は、歴史的な面で見れば自分よりも“老大国”だ。
 ここでいつものようにアーサーが癇癪を起こしても、笑顔一つで流してしまいそうな飄々とした雰囲気がある。それがありありと想像できて、面白い気分にはならない。
 この気分を上昇させるには、自ら想像を裏切る必要がある。

「俺達の体の中身が、国そのものだったら面白いと思わないか?」
「……ああ、だからセーヌ川ね。血が河って、そのままじゃない?」
「じゃあ鉱物。血液って鉄含んでるんだろ?」
「こういうのはまさに坊ちゃんの国が本場でしょうよ」

 幽霊に住民票を発行する国でありながら、イギリスは科学方面にも明るい。保守的な面が強いにも関わらず、この世界の真理を開拓していった者たちの中には、間違いなく英国の人間が数多く含まれる。
 だからフランシスは、アーサーに話を振ったのだ。自国の愛しい国民が発見した事実なら、その国そのものであるアーサーの方が詳しいだろう、と。

「愛すべき国民と、俺達の中身が一緒だとは思えない」

 まあ、確かに。