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APHログまとめ(朝受け中心)

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 フランシスは口にするのではなく、ついと深緑から視線を外すことで、その意見を肯定した。国は数百年、数千年単位で生き続ける。どういう原理なのか分からないが、まず一般的な生物では到達できない寿命である。
 特定の部位が少しだけ違うのか、それとも根本的なところから異なるものなのか。自分達のことであるにも関わらず、何一つ知らない。
 だから、とアーサーは続けた。

「俺達が国なら、この中身も国である、ってことにした方が自然だろ?」

 そう尋ねられても、フランシスは即座に頷けなかった。納得できない訳ではないが、どうにも話が突飛過ぎると感じた。

「そうなったら、お前の弟分のピーターなんか鉄分には事足りないな」

 天然資源等一切なく、人工物でのみ矮躯がなりたっている一人の幼子を思い出した。もしアーサーの持論を認めるのなら、あの子供は人の形を保つことすら難しいだろうに。
 いくら鉄分が人体に必要な栄養素だといっても、それだけでは人の身体は成り立たない。それどころか、生命としても成り立たないだろう。
 フランシスがそう返すと、アーサーの機嫌は些か降下したようだ。愛嬌のある太い眉を下げ、眉間に皺を寄せる。

「ピロートークを真に受けんなよ。愛の国の名が泣くぜ?」

 これには思わずフランシスも口角を引き攣らせた。一体どちらが言い出した話題だったか。他でもない、不粋だと言った彼が言い出したのだ。
 彼は主張に一貫性がない人間ではない。三枚舌と取り沙汰される彼だが、それは器用に立場を変え、それぞれの立場で主張するからだ。その一点一点は互いに交わらず、ひとつひとつを取ってみれば主張も言い草も一貫している。
 仕事の面だけではなく、彼はプライベートでもその点は変わらなかったはずだ。ただしプライベートになった途端に口下手で意志疎通が叶わないことは間々あったが。しかしそれにしても、今回のようなことは長い付き合いの中でも遭ったことがない。
 何とか言い負かしてやろうと、フランシスも思考を巡らせる。情事で溶け切った頭には中々の重労働だ。
 もしこれを嬌言とするならば。
 仮定すれば、大層愉快な答えが導き出される。フランシスの薄い唇は弧を描き、深緑を淡青で覗き込んだ彼から零れたのは、耳に心地良いテノール。
 至近距離に欝陶しさを感じたのか、鼓膜を近くで震わせられるその感覚に耐え兼ねたのか、アーサーはふるりと身体を震わせ、そして幾分顔を顰めた。

「アーサーがさっき舐めた精液、あれは何になるの?」
「はぁ?」
「血は河、流れるものは鉱物、なら、この欲の果ては?」

 それはまるで謎掛けだった。問うフランシスも「さあ、言ってみろ」と面白がる様子を微塵も隠していない。
 適当にあしらえばいいものを、アーサーは真面目に考え込んだ。生真面目な気質の彼だからこそ、フランシスの戯言すら無下にできなかった。
 嬌声を上げた喉は酷く痛み、頭もしっかりと働いている訳ではない。欲望に溶け切ってはいないものの、しっかりと己の器官と認知するには少々心許なかった。
 腹にぶちまけられた白濁は固まり始めている。そのかぴかぴとした感じがまた不快で、陰毛にも付着したそれがやけに目につく。
 この白濁、きちんとした生き物ならば子孫を残すために必要なものである。どんな生き物でも、このタンパク質の海と母胎の羊水、二つの生命の海から生まれる。
 よく、XYの染色体を持つ同士が行うこの行為を「殺人行為」と揶瑜する人間がいる。非生産的な行為であることは、誰の目から見ても明らかだろう。例えそこに愛や絆が生まれたとしても、それが次の世代に引き継がれることはない。
 人間ならば、生き物ならばそう判断されても仕方のないことなのかもしれない。しかし自分達“国”は?
 異性とされるXXの染色体のヒトと交われど、相手の身に命が宿ることはない。そもそも自分達は国であってヒトではないのだから、例え子供が生まれたとしてもそれは異種間の子供。キメラと呼ばざるを得ない。
 組み敷く男と己は同種だ。フランシスとアーサーという名を持ってはいるが、本来の名はフランスとイギリスと言った方が正しい。同種同士が交わったならば、この白濁が示すものもまた違った意味になるのではないだろうか。

「……条約締結」
「ほー? ハジメテの相手と結ばれる、とか?」

「菊の国の言葉で操立てだっけ?」と軽い調子でフランシスは返す。アーサーはそれを鼻で笑った。欝陶しい、と重力に従い頬に落ちてきたフランシスの髪を払い、アーサーは持論を展開せんと口を開く。

「机に向かうよりもカンバスに向かう方が好きなフランシス様に教えてやるよ」

 酷い言われようだと思ったが、フランシスはにやけた顔でその一言を聞き流す。あまり認めたくはないが、フランシスを罵るときのアーサーの表情は中々にクるものがあるのだ。勝ち気で不敵で、まさにふざけ混じりで「女王様」と呼びたくなる。
 そんな女王様の機嫌を損ねないようにするには、彼が言い終わるのを黙って聞いていなければならない。

「精液、つまり精子には染色体がある。生殖細胞だから当然だけどな。染色体にあるDNAの構造は、生物の形質の設計図──ああ、ピロートークにしちゃ色がないな──色を付けて言えば、その生物の歴史が刻まれているんだ」

 これが先程まで自分の下で喘いでいた男の言うことだろうか。声は確かに嗄がれているが、言言ははっきりとしていた。明瞭だった。
 だから、ととびきり得意げな笑顔でアーサーは続ける。

「俺とお前の歴史が、このベッドの上で交わったんだよ」

 お前にこれが看破できるか。今度はアーサーがフランシスを覗き込む。
 こういった領分になると、フランシスには分が悪い。知識がない、機転が利かないということではない。こちらが何か言えば言うほど、アーサーは返す言葉で自分の言葉をより確かなものにしていくのだ。そうなるとフランシスが何を言っても踏み台にしかならない。
 フランシスは言い負かすというよりも、ちょっと相手を突いてやろうと思った。アーサーが少し不機嫌そうにあの眉を寄せれば万々歳、そんな心持ちだった。

「だったらさ、条約締結って言うより異文化交流って感じじゃない?」
「…………」
「──ッて、いきなり殴るなよ!」

 きちんと彼の言葉を最後まで聞き、軽い気持ちで言ったにも関わらずフランシスは深緑の女王様から拳を頂いた。



090310