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APHログまとめ(朝受け中心)

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吟詠の一日(フランシスとアーサー)



 新しいクロスを取り出し、テーブルに掛け直す。昼間まで掛けていたものは既に取り外して洗濯籠の中だ。
 洗濯籠の中に入っているのは爽やかなグリーンのクロスだが、今木目を覆っているのは柔らかなオレンジだ。
 大きな窓から夕日が差し込み室内を照らしている。燃える赤にアーサーは目を細めた。

「なんで夕日って赤くなるんだろうな」

 思わず零れた独り言。
 理論など用意する間もなく、感性からの疑問だった。
 もちろん答えなど誰かに期待している訳ではない。しかし声は返ってきた。

「そりゃ簡単さ、林檎は熟れたら赤くなるだろ?」

 声をした方に顔を向ければ、フランシスが木べらを軽く振りながら得意げに口を開いた。
 美味しそうな匂いが鼻孔を擽る。今日のソースはトマトか、などと気を取られていれば返事も疎かなものになる。

「ああ、うん」

 クロスを綺麗に整えてアーサーはフランシスのいるキッチンへと向かった。
 鼻孔を擽る香りは一段と強くなり、自然と喉がなる。
 それまで空腹を感じていなかった腹がぐうと鳴った。
 手にした木べらをもう一度鍋に戻し、フランシスはトマトソースを作りながら答えた。

「苺だって熟したら赤くなる」
「まあ……」
「つまり夕日は太陽が熟した、ってこと。太陽が熟れる、つまり今日一日が熟れたんだ」
「……ふうん」

 気のない返事ばかりのアーサーだったが、フランシスがこちらを向いたことでやっと意識がはっきりした。
 トマトソースを作る男は呆れたようにアーサーを見ている。

「どうしたの、坊ちゃん。ぼんやりして」
「いや……随分詩的な表現だと思っただけだ」

 まさか独り言に対する答えより、夕食のトマトソースに気を取られていたとは言えない。
 仮にも恋人である男の紡ぐ言葉が食欲に負けたなど、あったとしても認めてはならないことだ。ましてやその恋人が愛の国を自負するなら尚のこと。
 言い換えるならばアーサーは、愛の国が囁いた情熱的な答えよりも彼が作るトマトソースを欲しているということである。
 それはアーサーの中でもフランシスに対する裏切りに当たるし、何より彼を思う気持ちが食欲に負けたようでアーサー自身のプライドも傷付いた。

「惚れ直した?」

 アーサーの内心の葛藤に気付くはずもなくフランシスは言葉をそのまま受け取った。
 浮かべられた笑みにいつも以上に動揺したのは、こちらに後ろめたさがあるからか。アーサーは言葉を詰まらせた。

「あまり浮かない顔してるとさ、アーサーの今日は美味しく熟れないよー?」
「うるさい、ばか。余計なお世話だ」

 ここで素直に一言言えれば良かったのに。アーサーの口は条件反射で憎まれ口ばかりを叩く。

「俺の一日が熟れてないって言うなら、お前が何とかしろよっ」

 ふいと顔を背けたアーサーは、フランシスの苦笑を直接見ていない。
 ただ長年親しんだ心地良い低音が鼓膜を揺らしただけだ。

「あーあ、アーサー。顔真っ赤」



090718

眉毛をツンデレにしようと頑張った。