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コードギアスログまとめ(スザク受け中心)

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高潔で純白な愛の帰還(3と6と7)



「スザクっ、いたいた!」

 向こうから満面の笑みのジノと、相変わらず表情に乏しいアーニャが歩いて来た。
 スキンシップ過剰な大型犬、とスザクはジノを思っている。実際今も距離が縮むに連れて早足にあり、最終的には駆け出した彼に抱きつかれ、スザクは二、三歩よろめいた。カシャリ、というシャッター音に抵抗がなくなったのはいつからだろう。上書きされていく日常に、冷水の中からいつの間にか居座っている傍観者が呟いた。

「庭に新しい木を植えたんだ。満開だから見に行こうぜ」
「ジノがスザクに見せたいって、さっきからうるさい」

 心底迷惑そうにアーニャが言った。彼女の表情から察するに、だいぶスザクを探していたらしい。

「ごめん、アーニャ」
「見つかったからいい」
「それから、ジノ」
「んー?」
「苦しい」

「別に逃げも隠れもしないから」と先程から抱きついたまま離れないジノの背中を軽く叩いた。
 離れたと思えば、今度は腕を引っ張られる。一息つくのに、深呼吸し損ねた。

「ほらほら、早く行こうぜ!」
「そんなに急がなくても……」

 スザクがジノの手を軽く振ってみても、しっかりと掴まれた手は離れそうにない。自分より大きな掌、長い指が恨めしい。
 ジノを止めるようスザクはアーニャに視線を送った。

「さっきからあんな調子だから」

 第一止められていたら、アーニャはジノに連れ回されていない。どうしても外せない急用がある場合や都合が悪い時に、ジノは相手に何かを押し付けない。きっとアーニャに何か用事があったのならば、ジノはアーニャを誘わなかっただろう。
 ジノの強引さに呆れるべきなのか、たまたま暇を持て余していたアーニャに同情すべきなのか。
 スザクはとりあえず、掴まれたまま引っ張られ、若干痛みが伴ってきた腕を解放してもらうところから始めることにした。



 中庭に出て、草花よりも樹木が多く植えられた場所まで突き進む。スザクの腕を引っ張るジノの足取りに迷いはない。アーニャはそんな二人の少し後ろをついていく。ちょっとした遊歩道になった石畳の上に、三つの靴音が連なる。

「ほら、綺麗だろ?」

 ようやくスザクは腕を解放された。
 ジノは大仰に両手を広げてみせた。何から何まで整った彼がそういった動作をすると、気障だと思う隙間もない。

 落葉樹では有り得ない、固い葉の音がした。
 深緑の葉の中に、真っ白な花が咲いている。肉厚な花弁はしっかりとがくに固定され、多少木を揺すったぐらいでは落ちそうにない。

「ツバキっていうんだろ? コレ。エリア11から取り寄せたんだ」

 ジノの得意そうな声は聞こえるが、スザクもアーニャも彼の顔を見てはいなかった。視線は全てツバキに注がれている。

「……満開」

 二、三回シャッターが切られた。どうやら、アーニャもまだ花は見ていなかったらしい。スザクを探すジノに大人しく連れ回されていたのも、もしかしたらこの花を見たかったからかもしれない。

「白椿……本当にすごいね。ジノが買ったの?」
「ああ、エリア11の花はみんな綺麗だってよく聞いていたから」

 それにしても、とスザクは思う。
 エリア11・日本――言い方は色々あれど、かの国の花といえば今も昔も桜ではないかと思う。スザクの幼なじみであり、親友で、この世で最も愛憎深い少年も、日本の花といえば桜だと言っていたような気がする。
 幼い日々は、何度再生して思い返したか分からない。しかし、擦り切れたテープのように声は途切れ途切れで、今となっては憎しみまでも塗り重ねられてはっきりと思い出せない。軽薄なものだ、と自嘲を浮かべそうになり、スザクは誤魔化すようにもう一度満開のツバキを見た。

「桜の方がよかった。綺麗なんでしょう?」

 アーニャの言葉に、どうやら自分の連想はずれていなかったらしいとスザクはほっとした。この時点でジノの観点がずれている、とそこまで深いところまで思考は至っていない。

「うん、ちょうどアーニャの髪と同じ色の花が咲くんだ」

 正確にはアーニャの髪色よりも白みがかった淡い色だ。しかし色の濃淡の表し方など人それぞれで、スザクもあの色合いをうまく伝えることはできそうにない。色の系統としては間違っていないだろうと無理矢理納得することにした。

「一通り写真撮ってそれはないだろ、アーニャ」
「エリア11の花といえば桜なのに、ツバキを買うジノがおかしい」
「おかしいは言い過ぎだろー」

 ジノとアーニャの言い分、スザクはどちらに賛同することもしないが、確かに何故ジノはツバキを選んだのか気にならないといえば嘘になる。

「ジノ、どうしてツバキにしたんだい? アーニャの言う通り、桜の方が有名だと思うんだけど」
「白の方がラウンズらしいかと思って」
「…………」

 やはりアーニャの言う通り、多少ジノの感性はおかしいのかもしれない。

「でも……ツバキは止めておいた方がよかったかもね」
「なんで? まさかスザクまでアーニャと同じこと言うんじゃ」
「違う、違うよ」

 スザクは否定の念を表そうと首を左右に振った。眉間に自然と皺が寄せられ、何となく苦しみを振り払っているようにも見える。

「本当に昔の話だけど……武士の間で、椿は不吉な花といわれていたんだ。植物を家紋にしている武家はたくさんあったけど、椿の家紋はひとつもない」

 ジノもアーニャも、じっとスザクの話の続きを待っている。勿体振るような話でもない、スザクは若干声を落として続きを紡いだ。

「椿の花が落ちる様はね、打ち首を連想させるから」
「うち……くび?」
「首を撥ねられる、ってことだろ?」
「花びらを散らせることなく、咲いた花の形そのまま、ぼとりと綺麗に落ちる。まるで過去の繁栄をそのままに、討ち取られたみたいで嫌だったんだろうね」
「……なーんか、イレヴンの感性ってよく分からないな」

 スザクは肯定することも否定することもなく、曖昧に笑った。
 枢木の本家にツバキはなかった。代わりに周囲の山々に自生していた。
 故意に父親が植えなかったのか、単なる偶然か。結果的に直接、スザクの父親の首は落ちることも飛ぶこともなく切り裂かれた。

 固い葉は風に揺られても柔らかな音を立てない。ぶつかり合う音が、中庭に響いた。





 その日はしとしとと細い雨が降り注いでいた。
 アーニャは傘を差すこともなく、椿の木をただ眺めていた。
 髪から滴り落ちた雨が、筋となって頬を濡らす。顎を伝ってぽたりと滴が落ちた。

「アーニャ! 傘も差さないでなにやってるんだよ!」

 石畳に薄く張った雨水を蹴り、ジノはアーニャの元へと駆け寄った。その手には二人分の傘がある。

「ツバキ」
「ん?」

 バッと傘が開く音と同時、広がった布に雨粒が当たって跳ね返る。

「枯れちゃった」
「枯れちゃいないだろ」

 深緑の葉は雨粒を跳ね返し、クチクラの厚い層は葉の内部に雨水が入り込むことを良しとしない。
 アーニャの視線は、地面へ。濘んだ土は、一歩踏み込めば白の制服に泥がついてしまうだろう。

「スザク、前線から戻ってくるってさ。迎えに行こうぜ」