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コードギアスログまとめ(スザク受け中心)

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その原理を解いて頂戴(特派)



 パチン、とあえて音として表す必要などない静かな起動音。ディスプレイに電子が走り巡る唸りとでも言おうか。どちらかといえば、その唸りが起動の合図と した方が近いように思う。

 ロイドは抱えたファイルをデスクに置き、腕を延ばして少し離れたところにあったコントロールパネルを引き寄せた。
 スロットに磁気ディスクを飲み込ませ、それが反応するのを待つ。カチャリ、しっかりとした金属の結合が外れる音がした。

「すいません、お待たせしてしまって」
「いいよいいよ、ボクも今準備し終えたところだから」

 それほど布にゆとりのあるデザインではない白衣の裾が翻る。にんまりと、そう形容するべくしてあるような笑みで、ロイドは入口のセシルに笑いかけた。
 セシルがカツンとヒールを鳴らすと同時、コーヒーの香ばしい香りも部屋に入室してきた。
 さながらヒールの音は香気の行進する足跡だろうか。
 起動したパネルを操作して、再生すべきデータを選択。その動作は指が勝手に覚えていて、香気の行進曲はロイドの思考回路の暇な部位が勝手に引っ張り出してきたものだった。

「なにか軽く摘めるものでも持ってくれば良かったですね」
「うーん、あまりお腹に血液いっても肝心の見分出来ないんじゃ仕方ないしね。コーヒーがあるだけでも有り難いよ。あ、砂糖とミルクは」
「ちゃんと持ってきました」

 薄暗い室内の光源は、二人の目の前にある大きなディスプレイのみだ。
 セシルの悪戯っぽい笑みが浮かび上がる。

「ココアの方が良かったですか?」
「欲を言えばね」
「ココア切らしちゃってて。そのかわり、はい」
「あ、カフェオレだー」
「砂糖多めにしましたけど、足りなかったら入れてください」

 セシルはロイドにカップを手渡すと、彼の座るデスクにシュガースティックを数本置いた。
 ロイドのカップはカフェオレだが、しっかりとコーヒーの香りはある。おそらくセシルのカップにはコーヒーが入っているのだろう。
 パネルの操作を続けながらカップに口を付ける。熱すぎず温過ぎないカフェオレは、ロイドの喉を優しく通り過ぎていった。

「じゃあ再生するよ」
「はい」

 待機中だったディスプレイが一瞬白に染まり、すぐに映像を表示させるために電圧が掛かり蛍光体が光る。一枚の画となる。次々と連なり切り替わり、動画というものになる。
 ディスプレイには、黒衣の男。左右の大型スピーカーから、暗闇を引き裂くような声がした。

『日本人よ、私は帰ってきた!』

 その言葉を皮切りに、次々と力強い言葉が連なる。回路がが選択され点滅し、ディスプレイの中の男が動く。

「……やはり、本人なんでしょうか」

 ロイドの隣に座ったセシルがぽつりと呟いた。その顔には焦りと不安が滲んでいる。
 枢木スザク。イレヴン。ランスロットのデヴァイザー。ゼロを捕えた少年。ナイトオブセブン。
 これらの記号をイコールで繋げるか否定系で繋げるか、それは人それぞれだろう。ロイドにしてみれば、デヴァイザーとナイトオブラウンズの一員が特出すべき項目だが、セシルは枢木スザクとこどもをイコールとする。必要以上の思い入れ、とは言わない。言わないが、ロイドにはスザクとこどもをイコールで繋ぐということはなかなかに理解しがたいものだった。

 なおもディスプレイの男の演説は続く。ここまで演出過剰とも言える言動ならば、いっそ彼は扇動者や反逆者よりも戯曲家にでも演出家にでもなればいい。その方がずっと平和で楽しめるだろうに。
 もしこの仮面の男が、かつてのゼロと同じであるならば――少なからず、ナイトオブセブンとなったスザクに何らかの影響があるのは確実だ。
 ゼロを捕らえたのはスザクで、彼の首を玉座に捧げて彼は最強の騎士となった。その資格を剥奪されることはなくとも、周囲の言葉に悪意が込められるであろうことは想像に難くない。
 セシルはその悪意を心配しているのだ。そんな刺など、スザクにしてみれば今更だろう。あの子はきっと、手足をもがれても足掻く。刺程度の痛み、あの押し殺した仮面の下に隠すまでもない。

「ゼロのあのスタイルは、符号や記号にしやすいからねぇ。本人であろうとなかろうと、ブリタニアに喧嘩を売るっていう意志表示が大事なんだと思うよ」

 ゼロの言葉は混沌の極みだ。繋がっているように見えて、裏側には貼り付けたような跡ばかりが目立つ。

「黒……くろ、ねぇ」

 それほど長い映像ではない。再生が終わると、ディスプレイは真っ青になった。
 セシルがもう一度再生させようと、ロイドの手元にあったパネルを操作する。

「セシルくん」
「はい?」
「黒って、何色から出来てるか知ってる?」
「え……?」
「絵の具をぐちゃぐちゃに混ぜてやれば黒になるし、炭素を含むものを燃やしてやれば黒くなる。あとはー……その他諸々、薬品混ぜても黒色の沈澱は出来るよねぇ」
「それが、どうかしましたか?」
「沈澱……ふふっ、沈澱かぁ。沈んでいく、澱」

 ロイドはまっすぐ青のディスプレイを見つめている。セシルはその横顔に、久しく感じていなかった不気味さを感じた。

「じゃあ、プラズマ。プラズマディスプレイで白を表示させるには?」

 ロイドの話の意図が掴めない。
 この応答が一体どんな意味を持つのだろうか。これが一年振りに現れたゼロを特定する糸口になるのならば、別に構わないと思う。
 しかしセシルには、目の前の男の考えが、やはり何も読み取れなかった。
 僅かに躊躇い、口を開く。

「プラズマディスプレイでで白を表示するには、赤、青、緑、三色すべての色を一気に点けて……」
「そのとーり!」

 ロイドはパンパンと手を打ち鳴らし、何が楽しいのかケタケタと笑っている。のけ反った喉が憎たらしい。

「色は真逆だっていうのに、作り方は同じなんだもんねぇ。黒と白って」
「…………ッ、コーヒー淹れ直してきます!」

 カップを持たずに部屋を出て行ったセシルに、我ながら意地の悪いことを言ったとロイドは思った。別にそれを反省しようとか、後悔した、といった感情が一切湧かないのが彼が彼たる所以だろう。

「白き死神……死神の相場は黒だけど、あんまり変わりはないねぇ」

 温くなったカフェオレを一口飲んで、ロイドはまた小さく嗤った。


080621

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