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死人に口なし

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禍根@新羅


「あ、でも車が転がってるね。静雄の仕業かい?」
 暢気な笑顔を浮かべる新羅を、三人は唖然として見つめた。新羅と一緒に来た作業員が二名、積んできた荷物を運び出している。その荷物に見覚えがあることに気付いて、セルティは肩をそびやかした。臨也は、新羅の姿を目にした時から、ずっと複雑な表情を浮かべている。

 二人の作業員は、荷物を置いてすぐに撤収した。発車する車に軽く会釈し、新羅は三人の傍まで歩み寄った。
「よぉ、新羅。どうしたんだ?」
 気が付いていない静雄だけが、不思議そうな顔で新羅に問いかけた。
「いやぁ、ちょっとね。……臨也、元気そうだね。無事で何より」
 新羅が僅かに含みを持たせて、臨也に笑顔を向けた。臨也は、その視線を避けて小さく舌打ちする。そんな様子に構いもせず、新羅は静雄とセルティに向き直った。
「二人の話を聞いて、ちょっと思うところがあってね。父さんに頼んで調べて貰ったんだ。そしたらビンゴ! 昨日の夜、裏口で一件納品があったというわけ。静雄が見たっていう性別・年齢と合致してるし、間違いない」
 新羅は、不機嫌な顔で黙りこくる臨也をちらりと視線で刺した。
「それでね、持ち物から住所が分かったんだけど、それが昨日のニュースの強盗殺人事件の、なんとお隣! どう考えても偶然じゃないよね」
 静雄はようやく荷物の中身を理解し、口の端を歪めた。新羅がそれを目にして、淡い苦笑を浮かべる。
「可哀想な人だよ。多分、偶然犯人を目撃しちゃったんだと思う」
 静雄は一瞬バッグに視線をやり、神妙な顔で頷いた。臨也が、そのやり取りを横目に吐き捨てる。
「解説をどうもありがとう」
「どういたしまして。いやぁ、危なかった。あとちょっとで保存液を注入するところだったよ。ちょっと冷えてるから死亡推定時刻が合わないかもしれないけど、細かいこと気にしてると、きりが無いからね」
 新羅がわざと生々しい言葉を並べ立てると、臨也は若干青い顔をして沈黙した。静雄もセルティも、げんなりした雰囲気を醸し出している。
「一応忠告しとくけど、帰る場所のある死体を始末するのは、ちょっと関心しないな。親しい人は何年も何十年も探さなくちゃならない。…………ま、冷たい言い方をすると、堅気は足が付きやすいから献体向きじゃないってこと」
 新羅は軽く息を吐き、そしてわざとらしく笑って見せた。
「まったく、セルティに死体なんか運ばせないでよね!」
 新羅に人差し指を突きつけられた臨也は、一瞬目を丸くして、すぐに不機嫌顔でそっぽを向いた。

 後片付けをすることになり、静雄は横倒しのバンを元に戻すべく向かい、セルティは男達を回収するためにバイクに跨った。新羅は、罰ゲームと称して臨也に手伝わせ、死体の入ったバッグを運んだ。臨也が憎々しげに悪態を吐く。
「この中年太りめ……」
 バッグはずっしりと重かった。たった二十一グラムでは、ダイエットにもなりはしない。

 日陰にバッグを避難させてから、新羅は海の傍まで来た。潮風に目を細めながら、そっと水面を覗きこむ。表面に海草が漂い、濁って底が見えなかった。お世辞にも綺麗とは言えない。
 そこへ、セルティがバイクに乗って戻ってきた。サイドカーに男が二人積み上がっている。新羅の傍まで来たセルティは、ハンドルに手をかけたままヘルメットを傾けた。新羅は静かに微笑む。
「さすが東京湾。汚いねぇ。……いつか、こんなところに沈むんだろうなと思ってさ。今日は大丈夫だったけど、いつか、君も静雄も、誰も助けられなくなった時にはさ」
 主語の無い言葉を、セルティは黙って聞いた。
 新羅は再び水面に視線を落とした。波がコンクリートに叩きつけられて、泡立った飛沫を上げている。
 不意に肩を叩かれて、新羅は振り返った。眼前に携帯の画面が突きつけられる。近すぎて焦点が合わないので、新羅は海ぎりぎりまで後ずさった。
『憎まれっ子世にはばかる』
 画面には、そう表示されていた。新羅は、画面を通り越してセルティを見た。
「…………そう……そうだね。きっとそうだ」
 セルティは軽く頷き、バイクを発進させた。その後ろ姿を見つめながら、新羅は呟いた。
「…………でも、あいつが悪いと分かってて助けようとする、僕も悪なんだよ」
 新羅の懺悔は、東京湾の汚濁に飲まれて消えた。



 セルティは、静雄と臨也の目を盗んで影でサイドカーを作り直した。いつもより大きめで、十分二人乗り出来る。
「臨也ー! 帰るよー!」
 新羅が呼びかけると、少し離れた所にいた臨也が、不満げな顔で近付いて来る。普段なら勝手に帰っているはずだが、携帯が無いせいか心許なげに佇んでいた。静雄は、バイクの傍でセルティと待ちぼうけている。
「コレ、来たときは無かったよね。ていうか、サイズもなんか変わってない?」
 臨也がサイドカーを不審げに見やり、しゃがみこんで縁を数度叩く。
「さっさと乗りなよ。君と静雄が大人しくしてられるわけ無いんだから、君と僕がサイドカーだよ。体格的に」
「手応えが変だよ。底、抜けない?」
 臨也がセルティを見上げた。セルティは何度も頷くが、臨也は疑わしげな目でサイドカーを見つめる。
「怪我したら治療してあげるから、さっさと乗、れ!」
 ごねる臨也の隙をついて押し込み、すかさず新羅もサイドカーに乗り込んだ。静雄は黙って後部座席に跨る。
「よし、出発!」
 体制の整わない臨也を他所に、セルティが特殊なエンジン音を響かせてバイクを発進させた。
「ちょ、まだ乗るなんて言ってない!」
「はいはい。口開けてたら虫が入るよ?」
 騒ぐ臨也に、新羅は冷たく言い放った。臨也は渋々口を閉じる。
 四人乗りの奇妙な漆黒のバイクが、日の傾き始めた車道に歪な影を作った。



「ねぇ、臨也。ニュースの続報があったんだ。強盗殺人が起こった家って、ギャングのリーダーの家だったんだってね」
 サイドカーの上で、新羅が臨也の背中に語りかけた。風を切る音が強く、セルティや静雄には聞こえないだろう。臨也にさえ、聞こえていないかもしれない。
「聞き覚えがある名前だったよ。去年ごろ、君から聞いた気がする」
 臨也は何も答えない。
「……あの死体の人、勘違いで殺されたんだよね? 本当に目撃者だったらとっくに警察に行ってるし、昨日の朝にはニュースになったはずだよ」
 臨也の背が、微かに揺れた。
「……ま、いいけどね」
 肌寒くなってきた風に晒されながら、新羅はそれっきり口を閉ざした。

作品名:死人に口なし 作家名:窓子